寺沢重法のブログ

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安倍晋三死去に対する台湾の世論

 安倍元首相に対する台湾での反応が報じられている。様々な追悼がなされている様子が紹介されており、銅像制作は最も印象深い社会現象の一つかもしれない。

smart-flash.jp  2022年9月8日閲覧

 「なぜ台湾では安倍元首相に対して多くの追悼の意が示されるのか」という問題にはは、国際社会における台湾の位置づけや日台関係、宗教観の違いなどの様々な要因を想定することができよう。

 しかしながら、それと同時に「台湾で安倍元首相に追悼の意を示す人はどの程度いるのか」「日台関係の今後を懸念する人はどの程度いるのか」という分布を適切に把握する作業も不可欠である。台湾民意基金会が2022年7月に実施した世論調査では「安倍首相の銃殺を悲しいと思うか」「半旗掲揚を支持するか」「安倍首相銃殺が日台関係に影響を与えると思うか」という三点を尋ねている(pp.3-7)。集計結果を覚書として整理する。

表1 安倍元首相銃殺に対する感情(n=1075)
とても悲しい 23.7%
まあまあ悲しい 48.2%
意見なし 7.1%
あまり悲しくない 11.6%
全く悲しくない 7.5%
わからない 2.0%
(出典)2022年7月「影響2022地方大選的若干內外因素–安倍遇刺、新論文門與政府防疫表現」 – 財團法人台灣民意教育基金會(2022年9月8日閲覧)の図2(p.4)を元に寺沢重法作成。

 悲しいと思う人が約70%、悲しくない思う人とが約20%、DK・NAは約10%である。悲しいと思う人の内訳は「まあまあ悲しい」が48.2%である。

表2 蔡英文政権による半旗掲揚に対する賛否(n=1075)
とても賛成 31.9%
まあまあ賛成 34.3%
意見なし 13.6%
あまり賛成しない 10.1%
全く賛成しない 7.9%
わからない 2.1%
(出典)2022年7月「影響2022地方大選的若干內外因素–安倍遇刺、新論文門與政府防疫表現」 – 財團法人台灣民意教育基金會(2022年9月8日閲覧)の図4(p.5)を元に寺沢重法作成。

 賛成する人が約65%、賛成しない人が約20%、DK・NAが約15%である。賛成する人の内訳は「とても賛成」が31.9%、「まあまあ賛成」が34.3%である。

表3 安倍元首相死去が日台関係に与える影響(n=1075)
とても心配 6.9%
まあまあ心配 18.6%
意見なし 4.6%
あまり心配でない 42.4%
全く心配でない 24.8%
わからない 2.8%
(出典)2022年7月「影響2022地方大選的若干內外因素–安倍遇刺、新論文門與政府防疫表現」 – 財團法人台灣民意教育基金會(2022年9月8日閲覧)の図6(p.7)を元に寺沢重法作成。

 心配する人が約25%、心配しない人が約70%、DK・NAが約5%である。

ペロシ訪台に対する「意見なし」「わからない」をどう見るか

 ペロシの訪台を歓迎する人が52.9%、歓迎しない人が24.0%であるとし報じられている。

www.jiji.com  2022年9月7日閲覧

 調査結果を歓迎するか、歓迎しないかの二つで見比べると、確かに歓迎する人は多数派ともいえるが、私が気になるのは残り約23%の人々である。

 記事が取り上げている世論調査とは台湾民意基金会が2022年8月に実施したものである。

 元の資料の集計結果は以下のようになっている(3頁の図1)。

表 ペロシ訪台を歓迎するかどうか(n=1035)
歓迎する 52.9%
わからない 4.7%
意見なし 18.3%
歓迎しない 24.0%

(出典)台湾民意基金会の「裴洛西訪台、中國軍演與台灣民意」の図1をもとに寺沢重法作成(2022年9月7日閲覧)。

 特段の意見を表明しない約23%の人々は「わからない」「意見なし」から構成される。歓迎する人は少数派ではないが、だからといって多数派と言い切れるとも限らず、ペロシ訪台に対する台湾の人々の受け止め方は賛否両論のようにも見える。約23%という値は小さいものではなく、一定の層を形成していると推察される。この層をどうみるかが鍵になるのではないか。

蒋経国の評伝

 蒋経国を扱った日本語の評伝を数点メモしておく。

 1990年に出版された評伝。政策そのものよりも人物像を掘り下げることに力点が置かれている。

 蒋経国李登輝を比較をした研究。両総統の連続性を論じる。

 台湾の総統の評伝の一つとして第二章で扱われている。

 いわゆる「江南事件」の契機となった評伝(江南は著者名)。

 蒋経国自身の回想録。特にソビエト時代に多くの紙幅が割かれている。

 李登輝の日記を日本語訳したもの。蒋経国との日々の交流が記録されている。厳密には評伝ではないかもしれないが、リアルタイムの姿を知ることができる。 

【刊行】書評『火輪』第43号(Nicole Zarafonetis, Sexuality in a Changing China: Young Women, Sex and Intimate Relations in the Reform Period, Routledge, 2017)

 『火輪』第43号に書評を書きました。

karin-natachan.hatenablog.com 2022年6月23日閲覧

回帰関係(岩崎2021)

  • 岩崎学(2021)「統計的因果推論の視点による重回帰分析」『日本統計学会誌』50(2):363-379。

 『統計的因果推論の理論と実装─潜在的結果変数と欠損データ』で岩崎(2021)の「回帰関係」が取り上げられていた(高橋2022:1)。興味深くかつ重要な概念だと思われるため、ここにメモをしておく。

これまでの統計学のテキストでは、『因果と相関は異なる』として「因果関係」と「相関関係」を対峙させることが多いが、ここではその中間として「回帰関係」を想定する。その定義は『必ずしも因果関係ではないが予測には有用な関係』である。

(出典)岩崎学(2021)「統計的因果推論の視点による重回帰分析」『日本統計学会誌』50(2):363-379、p.365。

参考文献

Rによる統計的学習入門(原著)

 『Rによる統計的学習入門』の原著(英語版)An Introduction to Statistical Learning: with Applications in Rが無料公開されている(下記のリンク先のDownload the Second Edition)。

www.statlearning.com 2022年5月6日閲覧

華人社会、台湾のノンモノガミー

 2021年に刊行された横田祥子著『家族を生み出す─台湾をめぐる国際結婚の民族誌』(春風社)の中の「正妻と妾─漢族にみる婚姻の種類・定義」(pp.110-117)で、華人社会、台湾における正妻と妾の関係が解説されている。

 台湾の地方都市のフィールドワークを行う中で人々が国際結婚配偶者を「買う」「買われた」といった言葉で表現するのを聞いたが(pp.110-111)、それに対する背景要因の一つとして指摘したのが華人社会の婚姻システム(正妻と妾)である。

内縁関係にある女性──妾──は、正妻との結婚で妻方が夫方から贈られる儀礼的財を贈られず、婚資に相当する財はすべて現金で支払われた。またその際、女性の生家は娘に持参財を持たせなかった〔Watson, R. S. 1991: 236〕。したがって、実際に夫には妻が一人しかいなくても、持参財を一切伴わないで嫁入りした女性は、内縁の妻と同一視された〔ibid.: 239〕。

(出典)横田祥子(2021)『家族を生み出す─台湾をめぐる国際結婚の民族誌春風社、p.115より。

 Watsonの研究は下記のものである(香港の研究)。

california.universitypressscholarship.com

ポルノの公衆衛生学的研究(Rothman 2021)

 公衆衛生学の観点からポルノを論じた研究。Oxford Schllarship Onlineで各章のアブストラクトを読むことができる。

oxford.universitypressscholarship.com 2022年4月28日閲覧

 目次は以下の通りである。

  1. アメリカの公衆衛生問題としてのポルノ
  2. ポルノの定義
  3. ポルノ視聴者
  4. ポルノの内容
  5. ポルノと攻撃
  6. ポルノの問題のある使用
  7. ポルノと親密な関係
  8. 青少年に対するポルノの影響
  9. ポルノと身体イメージ
  10. 児童の性的虐待画像
  11. ポルノと人身取引
  12. ポルノ出演者の職業上の安全と健康
  13. ポルノの利点
  14. ポルノリテラシー

 第13章はポルノはどのような意味で問題なのかを考える上でも重要である。第11章と第12章はAVに関連する議論にもつながると思われる。興味深そうである。

トランスジェンダーに対する態度と宗教の関連に関するレビュー論文(Campbell and Anderson 2019)

  • Campbell, M., Hinton, J., & Anderson, J. R. (2019). A systematic review of the relationship between religion and attitudes toward transgender and gender-variant people. The international journal of transgenderism, 20(1), 21–38. https://doi.org/10.1080/15532739.2018.1545149

 トランスジェンダーに対する態度に対して宗教がどのような関連を示してきたのかを論じたシステマティックレビュー論文。研究背景からはトランスジェンダーと宗教の関係を論じた研究自体は、まだ十分とは言えない研究状況がわかる。レビューのために抽出したのは約30の論文であり、Table.1に各論文の方法論や主な知見がまとめられている。全体的な知見としてては、宗教はトランスジェンダーに対する偏見と関連し、特に保守的な宗教と偏見の関連が確認されてきたとのことである。

 分析結果の目次に基づく論文の構成は以下の通りである(一部省略あり。頁数はPDFのもの)。これらの論点ごとに知見が整理されていく。

  • 「宗教的アイデンティフィケーション」(p.25)
  • 「特定の宗教属性」(p.25)
  • 「一般的宗教性」(p.31)
  • 「宗教的ファンダメンタリズム」(p.32)
  • 「宗教を一字一句信じること」(p.32)
  • 「宗教参加頻度」(p.32)
  • 「宗教教育」(p.32)
  • ジェンダー」(p.32)
  • 性的指向」(p.33)
  • 「ターゲットになるジェンダー/性」(p33)

ジェンダー、セクシュアリティ、宗教に関するレビュー論文(Schnabel et al. 2022)

  • Schnabel, L., Abdelhadi, E., Ally Zaslavsky, K., Ho, J.S. and Torres-Beltran, A. (2022), Gender, Sexuality, and Religion: A Critical Integrative Review and Agenda for Future Research. Journal for the Scientific Study of Religion. https://doi.org/10.1111/jssr.12781

 ジェンダーセクシュアリティに対して、原因、効果、中間媒介効果としての宗教がいかなる関連を示してきたのかを扱ったレビュー論文。10の問いに基づきながら論述する。

処女・童貞であることをどこまでカミングアウトしているのかを測定するための尺度作成(Barnett et al. 2021)

 処女・童貞であることをどこまでカミングアウトしているのか、あるいはしていないのかを測定するための尺度、disclosure of virginity status(DVS)を作成した論文。

 家族、仲間、宗教的人物に対するカミングアウト状況を測定。DVSにはジェンダー差が確認されたという。

「コロナ禍で増える既婚者のプラトニック恋愛。100人調査でわかった不倫との違いは…」(日刊SPA!2021年11月10日)

nikkan-spa.jp  2022年4月3日閲覧

 コロナ禍の不倫とプラトニック恋愛に関する調査。

コロナ禍は、既存の人と人との関係性を分断する一方で、人が人との新しい絆を求める傾向を強め、それは、本来家庭を顧みなくてはならない既婚者にも波及しているのではないだろうか。

(出典)コロナ禍で増える既婚者のプラトニック恋愛。100人調査でわかった不倫との違いは… | 日刊SPA!(2022年4月3日閲覧)

 

性のダブルスタンダードを正しいと思う理由(Wesson 2022)

 性的ダブルスタンダードがが正しいとされるのは何故だと思うかを調査した論文。調査対象はアメリカの若年者。量的調査と質的調査が併用される。
 結果、たとえば、昔から(親、時代、宗教の影響)、行動自体が受け入れられない(マナー、男性/女性文化、生物学的理由etc)、メディアの影響などが指摘されるという。