喫煙と新型コロナに関する論文が撤回

 GIGAZINEで報じられていたニュース。

gigazine.net  2021年4月30日閲覧

 前回の記事で取り上げたのは、禁煙推進派の研究者の論文が、データが疑念ありとの理由で撤回されたケースだった(関連記事)。こちらのケースは、著者の中にたばこ関係者が含まれていたことが、論文刊行後に明らかになったために撤回されている。Retraction Watchでも紹介されている。

 両記事の情報をベースに、概要を整理してみる。

 撤回された論文と撤回の公知は、次のものである。

 撤回理由は、GIGAZINEが報じている通りだと思われる。著者の内2名が、たばこ産業に関連することが明らかになり、論文にCOI上の問題が生じているという。研究内容そのものに問題はないが、コロナ禍であることを鑑みて撤回を決めている。

雑感

 コロナ禍でなかったとしたら、撤回されなかったのだろうか?もし、そうであるとするならば、論文撤回も判断する人や社会状況によって変わり得ることを示唆しているようにも思う。

電子タバコと心筋梗塞に関する論文が撤回されたケース

  先日のGIGAZINEで喫煙と新型コロナに関する論文が撤回されたと報じられていた。著者の中にたばこ業界関連者がいることが論文刊行後に明らかになったためである。COI関連の撤回であり、研究内容そのものが疑われたわけではないようである。

 それでは、研究内容自体が理由で撤回されたケースはないのだろうか。約1年前に1つあった。電子タバコ使用が心筋梗塞に影響を与えることを示した論文である。

 論文撤回の情報を集めているRetraction Watchでも紹介されている。

retractionwatch.com 2021年4月30日閲覧

 以下、Retraction Watchをソースとして、このケースを私なりに整理する。

 まず、撤回されたのはJournal of the American Heart Association(JAHA)誌に掲載された以下の論文である。

  • Bhatta DN, Glantz SA. Electronic Cigarette Use and Myocardial Infarction Among Adults in the US Population Assessment of Tobacco and Health. J Am Heart Assoc. 2019;8:e012317. DOI: 10.1161/JAHA.119.012317.

 撤回の公知は2020年2月に出されている。

 著者のStanton Glantzh氏はカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者で、世界的に有名な禁煙推進派、禁煙学者である。

 撤回に至った大まか経緯は以下の通りである。

  • 2019年6月に論文刊行。Glantz氏がblog spotに、電子タバコ心筋梗塞の原因になるという更なるエビデンスが得られた、と投稿する。
  • Brad Rodu氏(ルイヴィル大学)が、心筋梗塞電子タバコのどちらが先に生じたのかを説明できていないとして、JAHAに撤回も要求。
  • USA Todayの2019年7月号でRadu氏の発言が報じられる。その後、JAHAと著者らとの間で、データの信憑性、訂正の公知、再分析などに関するやり取りが行われる。
  • 2020年2月にJAHAが撤回を公知。心筋梗塞の発生が電子タバコ使用の前なのか後なのかについて、編集者が追加分析を求めるも、著者らは信頼に足る再分析結果を提出できなかったこと主な理由だという。著者らによるデータへのアクセスに問題があったようである。

 なお、USA Todayの報道はネット上で閲覧可能である。Radu氏へのインタビュー、論文のどこがどう問題なのかが詳しく報じられている。

www.usatoday.com 2021年4月30日閲覧

「コラム:コンドーム需要急増の中国、政府の悩みの種に」(Reuters 2017年5月28日)

jp.reuters.com  2021年4月27日閲覧

 中国における性意識・性行動の変容をコンドーム需要に光を当てて解説したコラム(関連記事123)。コンドーム産業のインパクトを指摘しつつ、政府が今後どのような対応をするのかを推察している。下記の記述がその複雑さを端的に指摘していると思われる。

だが、すでに企業の海外買収に懸念を抱いている中国政府側は複雑な心境かもしれない。家族計画の方法として、コンドームより歴史的に多用された中絶は、病気の拡散につながった。一方で、避妊手段が普及すれば、子供の数が減りかねない。

 

(出典)コラム:コンドーム需要急増の中国、政府の悩みの種に | ロイター(2021年4月27日閲覧)

中国最大のセックスグッズ工場を取材(Topdser Official 2020年12月27日)

youtu.be  2021年4月27日閲覧

  近年の中国における性意識・性行動の変化をめぐる議論において、セックスグッズの需要や使用状況が取り上げられることがある(関連記事123)。本動画は中国南部の東莞にあるセックスグッズ工場内を取材したものである。大まかな構成と対応時間は以下の通りである。

 ショールームと商品の解説(1:52)
 生産ラインの紹介(4:18)
 デザイナーへのインタビュー(7:53)

 全体としてみると、個々の商品を詳しく取り上げている印象を受けた。

 なお、同配信者による、本動画以外のセックスグッズ関連動画として、以下のものがある。併せて視聴するとより興味深いかもしれない。

 

華人は日本のアダルトビデオをどう受け入れているのか?(王・邱2015)

  王向華と邱愷欣の両氏の論集。台湾を中心とする華人社会と日本のAVがテーマである。両氏とも文化人類学と日本研究を専門としている。香港や台湾における日本のAVの受容に関する研究に長らく従事し、その成果として『Japanese Adult Videos in Taiwan』を刊行している(寺沢2020)。 

  本書はその姉妹編として位置づけることができる。全体として英語の既刊論文(寺沢2020:174-175)を中国語訳したものがベースになっている。

 本書の出版社であるAiriti Pressの書籍紹介から本書の目次を確認してみると以下のようになる(著者名と訳者名は省略した)。

  • 前言
  • 第一部分:文化符碼
  • 性—臺灣女性的性存在由「人類」轉化為「動物」的儀式
  • 貶低女性以淨化男性—日本Akume 電影拍攝現場的民族誌
  • 第二部分:消費/生產的文化
  • 「真正的性調」—臺灣男性對日本成人電影的品味
  • 我說不喜歡看日本A片只是因為你喜歡它—臺灣色情品消費的性別政治
  • 越生產與消費的對立—在臺灣的日本A片字幕翻譯的研究
  • 第三部分:文化與個體
  • 個人行為如何跟從文化,卻不受其規限—反思臺灣女性使用色情電影的情況
  • 「性」的手段,「非性」的目的—日本色情A片在臺北之使用
  • 第四部分:交碰的文化
  • 新性感女神典範之興起—夕樹舞子色情光碟在香港之個案分析
  • 跨越國境的日本成人A 片與戰後臺灣有線電視的出現

 全体で4部構成になっており、各種文化理論や消費論を軸としている。アクメ、AVの字幕、戦後台湾のメディア、夕樹舞子のAVなど単語が確認される。

参考文献

  • 寺沢重法(2020)「書評 日本のアダルトビデオ、台湾へ―Heung-wah Wong and Hoi-yan Yau著『Japanese Adult Videos in Taiwan』」『饕餮』28:166-175。