寺沢重法のブログ

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放送大学の放送授業の中から社会調査士の技能に関連しそうな授業を探してみると・・・・

 更新2021年4月24日

 コロナ禍の中の大学教育をめぐる議論において、放送大学の役割がしばしば注目される。各大学がオンライン授業への切り替えを求められる中、通信制大学である放送大学放は、いわばもともとオンライン授業に強い教育システムである、というのが大きな理由の一つだろう。幅広い学生を受け入れているという点も含まれよう。関連記事として以下のものがある。 

www.asahi.com  2021年4月24日閲覧

 放送大学の授業はテレビ、ラジオで放送されているため、視聴するだけであれば学生でなくともこれらを通じて学ぶことができる。それでは放送大学の授業を視聴するとどのようなスキルを学ぶことができるのだろうか。手順や組み合わせをどう考えるか。ここでは私が取得し、かつ科目の一部を担ったことのある社会調査士・専門社会調査士について、放送大学の授業の中から、その技能に関連しそうな授業をメモしてみる。対象は2021年度1学期開講の放送授業である。

 社会調査士とは一般社団法人社会調査協会が実施する資格であり、大学、大学院で社会調査に関する体系的に学んだことを示すものである。社会調査やデータ分析などに関する対応科目を履修すると授与される。大学学部レベルが社会調査士、大学院レベルが専門社会調査士である。詳細は社会調査協会のサイトを参照されたい私見の限り、もっぱら社会学専攻の人々が取得している。

 私がら社会調査士・専門社会調査士を取得したのは約10年前であり、関連授業の一部を担ったのも約5年以上前のことである。その後、社会調査士をめぐる状況は変化しつつあると推察される。現在の状況からはいくぶん乖離していると思われるが、私の記憶を頼りに整理してみたい。

 なお、この記事はあくまで私個人の考察であり、放送大学における社会調査士の取得可能状況を解説するものではない。放送大学における社会調査士取得の可否や対応科目などについては、直接、放送大学で確認されたい。

 さて、まずは必要な科目の内容を確認する。社会調査協会のサイトには、社会調査士に対応すべき科目として以下の技能が掲載されている。

【 A 】 社会調査の基本的事項に関する科目
【 B 】 調査設計と実施方法に関する科目
【 C 】 基本的な資料とデータの分析に関する科目
【 D 】 社会調査に必要な統計学に関する科目
【 E 】 多変量解析の方法に関する科目
【 F 】 質的な調査と分析の方法に関する科目
【 G 】 社会調査を実際に経験し学習する科目
※【 E 】と【 F 】は、どちらかを選択。

 

(出典)社会調査士カリキュラム詳細 | 学生の方 | 社会調査協会(2021年4月24日閲覧)。

  私の経験の範囲でいえば、実際に割り当てられる科目は、講義、購読のゼミ、調査実習など様々なものがあり、AからGまでの全てが一対一の科目にきれいに対応するというわけではない。年度や教員によってやり方が異なり、大学によっても異なる。社会調査士単独で取得する場合と、専門社会調査士と同時に取得する場合とでも異なる(私は後者)。

 しかしながら、ある程度固定された技能として、(1)社会調査法の基礎知識、(2)社会統計学、(3)統計ソフトを用いたデータ分析の実習があったように思われる。放送大学の番組表を見てシラバス検索をした結果、これに関連しそうな授業には以下のものがあった。項目別に並べてみる(再放送時間など略)。    

 YouTubeに授業紹介動画がアップロードされていた科目もあるので、そのリンクも貼る。

(1)社会調査法の基礎知識

 「社会調査の基礎」は、まさに該当するものである。社会調査やデータの種類から始まり、調査票の作成方法、フィールドワークの方法、データの読み方などが扱われている。

 「教育調査の基礎」は教育に関するテーマについて、統計調査、事例研究、データの解釈などが扱われる。これもまさに社会調査の技能である。

 「心理学研究法」では、調査票調査などの社会調査法とも共通する内容が扱われる。意識調査や価値観調査などでは、心理学関連の調査項目を扱うことがしばしばあるため、心理学における調査法の知識も重要である。実験法は心理学ならではの方法という印象があるかもしれない、だが、近年は実験を用いた社会学的研究の重要性も指摘されているため、実験法に親しんでおくのものよい。

 「ユーザ調査法」は情報機器などの利用者を知るための技能である。上述の科目とは少し異なるように見えるかもしれないが、エスノグラフィーや調査票調査などが扱われている。ログ解析や言語プロトコル法などは、オンライン上データを用いた社会調査を進めていく際に特に有用だと思われる。利用者の認知に関する内容は、調査対象者を理解する上で重要だろう。 

(2)社会統計学

 「社会統計学入門」は社会調査で求められる内容を扱っている。基本統計量、クロス表分析や相関分析などの二変数間の分析、推測統計学、重回帰分析、ロジスティック回帰分析辺りまでが扱われている。回帰分析については少なからぬ回を割り当てている。

 「心理学統計法」は基本統計量、推測統計学、変数間関係が扱われる。「社会統計学入門」とも共通してくるが、平均値の比較、分散分析に重点を置いている点が特徴的である。これは心理学分野では分散分析を駆使することによるのだろう。

 「身近な統計」は、報道などで日常的に触れる統計を読み解くための技能獲得を目指したものである。代表値、ばらつき、サンプリング、検定、相関、時系列データなどが扱われる。

 「統計学」はデータ分析のための技能獲得を目指したものだが、上記科目よりも統計そのものの理解に重点をおいているようである。分布に関する講義に時間が割かれ、ロジスティック回帰分析、主成分分析、因子分析などまで取り上げられている。

 なお、私がかつて取得した時を時を起こすと、学部レベルの社会調査士では、基本統計量から始まり、重回帰分析あたりまで、ロジスティック回帰分析、主成分分析、因子分析は大学院レベルの専門社会調査士で扱われた記憶がある。放送大学の上記科目はその大半をカバーしているように見受けられる。 

(3)統計ソフトを用いたデータ分析の実習

 計量分析の実習である。大きな特徴の一つは、フリー統計ソフトであるRとRStudioを使用することであろう。実習内容は、Rの操作法から始まり、グラフや表の作成方法、基本統計量、二変数間関係の分析、検定、回帰分析、因子分析などが扱われる。さらに、多次元尺度法、テキストマイニングニューラルネットワークなども取り上げられている。これらの分析を、授業を視聴し自らRを動かしながら学べるのは魅力的である。

 私が社会調査士のデータ解析の実習を受けた記憶では、商用統計ソフトを使用し、おおむね重回帰分析あたりまでが扱われた。実習を少し受け持った時は、これにロジスティック回帰分析を少し加えた。多次元尺度法などは専門社会調査士の内容だった。

 次に、専門社会調査士の技能を見てみる。社会調査士同様、社会調査協会のサイトには以下の技能が指定されている。

【 H 】 調査企画・設計に関する演習(実習)科目
【 I 】 多変量解析に関する演習(実習)科目
【 J 】 質的調査法に関する演習(実習)科目

 

(出典)専門社会調査士カリキュラム詳細 | 学生の方 | 社会調査協会(2021年4月24日閲覧)。

 こちらも担当教員や年度などによる内容の違いが想定される。内容がある程度固定されるであろう多変量解析に関してみてみると、以下の科目が当てはまりそうである。

  共分散構造分析、ベイズ統計、メタ分析などが特に深く関わるのではないだろうか。

 以上、放送大学の放送授業の中かから社会調査士・専門社会調査士の技能に関連がありそうなものを私なりにピックアップしてみた。これらの科目以外にも、たとえば、臨床心理学や文化人類学の科目は、インタビュー調査やフィールドワークなどの質的調査法に関連してくると思われる。コンピューター科学関係科目は量的研究、社会調査法の対象である社会現象については各種社会科学系科目が関連しよう。また先日は「統計的因果推論の考え方と技術」という特集番組が数回にわたって放映されていた。

 この記事では誰でも視聴可能な放送授業のみを取り上げたが、学生が受講する面接授業やオンライン授業にも社会調査に関連しそうな科目がいろいろある。

 私の経験の範囲でいえば、社会調査士の技能に関連するであろう科目は、放送大学で相当にカバーされている印象を受けた。コロナ禍における大学教育の議論において、少なくとも社会調査では、重要な教育システムではないかと推察する。