宗教社会学に関する論集・テキスト(1)─総論

更新2021年4月22日

  宗教社会学に関連する書籍を取り上げる。宗教社会学といっても、隣接領域は多岐にわたり、立場によって論調も異なる。堅い内容のものもあれば、ポップなもの、あるいは宗教関係者が深くかかわっているものなどがある。ここでは近年の代表的なテキストを総論として挙げ、各論は別途挙げる(「宗教社会学に関する論集・テキスト(2)─宗教、経済、階層」)。

 私見の限り、宗教社会学は日本のものと、アメリカを中心とする英語圏のものとで学風がいくぶん異なる。アジア諸地域の宗教社会学は近年後者の影響を受けつつある(寺沢・羅2016)。まず、日本のものを挙げ、次いで英語圏のものを挙げる。 

 なお、この記事は、かつての公式サイト「寺沢重法のサイト」で公開していた資料の一部に基づいており、記事作成にあたっては大幅に加筆修正している。

宗教社会学を学ぶ人のために

宗教社会学を学ぶ人のために

  • 発売日: 2016/04/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  宗教社会学の最も新しくかつ手堅いテキストの1つである。第1部ではウェーバーやデュルケムなどの宗教社会学の古典から始まり、世俗化理論、合理的選択理論などのその後の宗教社会学の展開、日本における宗教社会学に進む。宗教社会学の理論を扱っている。第2部では個別の宗教状況が網羅される。新宗教スピリチュアリティを含む、現代日本の宗教状況に力点が置かれている。 

  こちらは日本の個別現象に力点を置いた、具体的な宗教現象から学ぶスタイルのテキストである。たとえば、新宗教(第2章、第3章)、福祉や炊き出し(第4章)、葬儀(第8章)、生命倫理(第9章)、政治との関連(第10章)などが扱われている。『宗教社会学を学ぶ人のために』と併読すると、宗教社会学に対する理解がより一層深まるに違いない。 

宗教心理学概論

宗教心理学概論

  • 発売日: 2011/11/01
  • メディア: 単行本
 

  宗教社会学ではなく、宗教心理学の概論書である。しかし、宗教社会学(他の領域社会学も)は、心理学、社会心理学と接点をもつことがしばしばある。たとえば、祖先崇拝に対する意識、死生観など、価値観に関する議論は宗教社会学においてもなされている。また、特に計量社会学的な宗教社会学においては、宗教心理学における尺度や分析方法が用いられることも少なくない。その意味で、本書は重要である。もちろん宗教心理学のテキストとしても優れている。

  冒頭で述べたように、日本の宗教社会学アメリカのそれは雰囲気が異なる。大雑把に特徴を述べると、後者では計量社会学的研究、マクロ社会学的研究が中心である。私の知る限り、このようなスタイルの宗教社会学を紹介したテキストは、残念ながら日本ではまず見かけない。

 詳しく知るためには、現代宗教に関するデータアーカイブであるThe Association of Religion Data Archives(ARDA)の中のシラバスコーナーを参照するのがよいと思われる。

www.thearda.com 2021年4月22日閲覧

 ここにはアメリカの大学における学部、大学院の現代宗教関連のシラバスが資料として掲載されている。宗教社会学と直接的に関連するのは、学部のSociology of Religionと大学院のSociologyであろう。アメリカのシラバスらしく、数十点に及ぶボリュームのあるリーディングリストが提示されている。

 この中で私が特に興味を抱いたものが2点ある。1つはPenny Edgell氏の大学院用シラバスである(2020年)。欧米の宗教社会学理論を中心に古典から最新の論文を、コース全体を通じて一通り読み通す形になっている。リーディングリストを見るだけでも、研究動向がどのようなものであり、重要論文にはどのようなものがあるのかがわかるに違いない。

https://www.thearda.com/learningcenter/sharing/Syllabi/Edgell%20-%20Advanced%20Topics%20in%20Social%20Theory%20-%20Religion%20and%20Society.pdf 2021年4月22日閲覧

  もう1つはChristopher Ellison氏の大学院用シラバスである(2012年)。Ellison氏のリーディングリストでも世俗化理論や宗教市場理論などの理論に関する論文が挙げらているが、より特徴的なのは、科目の後半部で、宗教と様々な領域を扱っている点であろう。たとえば、宗教と家族、宗教と政治などであり、これらに関連する重要論文が取り上げられている。

https://www.thearda.com/learningcenter/sharing/syllabi/Ellison%20-%20Sociology%20of%20Religion.pdf 2021年4月22日閲覧

 シラバスコーナーには、宗教社会学であることが明示的に書かれてはいなくとも、関連するシラバスがある。たとえば、宗教と社会運動、人種、宗教調査などである。いずれも宗教社会学における大きなテーマである。

参考文献 

  • 寺沢重法・羅欣寧(2016)「中国における計量宗教社会学とその課題──Spiritual Life Study of Chinese Residents、Study of Mysticism in Chinese Buddhist Monks and Nuns、中国総合社会調査を事例に」『日中社会学研究』24:45-56。

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