2013年に実施された台湾社会変遷基本調査(Taiwan Social Change Survey)の中から、金門島と馬祖島を台湾の領土と思うかどうかについての調査結果をメモする。
いささか前の調査にも思われるが、その後の回ではまだ設定されていない設問のため、貴重である。18歳以上を対象とした全土規模のサンプリング調査である(中央研究院社会学研究所が実施)。
戦後台湾において、金門島(金門県)と馬祖島(連江県)は台湾と中国大陸の両岸関係の象徴的存在である。金門島は中国大陸の厦門市の対岸に、馬祖島は中国大陸の福州市の対岸にそれぞれ位置する。両地域の境界に位置するこの二島では、長らく戦闘が行われてきた(三橋2012:94-96、沼崎2014:57)。
2018年に『軍中楽園』が2018年に日本で公開された。これは1960年の台湾における軍用公娼を描いた作品だが、その舞台となったのが金門島である。激戦が繰り広げられた時代の金門島の様子を知ることができる。
現在の金門島では、当時の戦闘の様子は特段見られない。むしろ激戦化で使用された大砲を素材とした包丁などで知られる。金門島は日本でも研究されている(関連記事)。
馬祖島日本ではおそらくほとんど知られていない。
二島の具体的なイメージをつかむために、ひとまずWikipediaと台湾観光局のサイトを挙げておこう。略史と景勝地、史跡を知ることができる。
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金門県 - Wikipedia(2021年6月10日取得)
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金門県(2021年6月10日取得)
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馬祖島 - Wikipedia(2021年6月10日取得)
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連江県(馬祖)(2021年6月10日取得)
現在、二島は中華民国が実効支配している。管轄は中華民国福建省である。台湾で「台湾省」ナンバーの車を見かけることがある。これは「中華民国台湾省」である。金門島と馬祖島は「中華民国福建省」である。台湾と聞いて思い浮かべる台湾本土は、制度上は「中華民国台湾省」に含まれる。
それでは今日の台湾で二島は領土としてどのように認識されているのだろうか。冒頭で述べたように2013年に実施された台湾社会変遷基本調査に領土認識に関する設問がある(表1)。
表1 台湾の領土に含まれるもの(2013年実施のTaiwan Social Change Suvey) | ||
度数 | % | |
台湾 | 35 | 1.8% |
台湾・澎湖 | 42 | 2.2% |
台湾・澎湖・金門・馬祖 | 1659 | 87.1% |
台湾・澎湖・金門・馬祖・香港・マカオ | 35 | 1.8% |
台湾・澎湖・金門・馬祖・香港・マカオ・中国大陸 | 133 | 7.0% |
合計 | 1904 | 100.0% |
(出典)傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年6月10日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs13.pdf)の「 75. 請問您認為、我們國家的土地範圍應該包括哪些地方?」(p,229)より寺沢重法作成。DKおよびNA回答は除いてある。 |
領土を1つずつ追加した選択肢を設けている(1つだけ回答)。
2つ目の選択肢以降には澎湖諸島が含まれる。台湾の南西に位置する諸島であり、ここも両岸の前哨地だった(三橋2012:94-96)。現在は観光地や物産品で知られる。
「台湾」と「台湾・澎湖」で全体の約4%を占める。台湾本島と澎湖諸島のみを台湾の領土だと思う人はか人は相当少ない様子がうかがわれる。
それに対して、金門島と馬島を加えた「台湾・澎湖・金門・馬祖」は87.1%が選択している。台湾のほとんどの人が金門島と馬祖島を台湾の領土として認識しているようである。
大陸の諸地域を追加した「台湾・澎湖・金門・馬祖・香港・マカオ」と「台湾・澎湖・金門・馬祖・香港・マカオ・中国大陸」は全体の約9%である。これらの地域を含めたものを台湾の領土と認識する人は相当少ないと思われる。
これらの結果を総体的に見ると、金門島と馬祖島の存在が大陸と台湾を分ける地域として認識されていると推察する。
実施年は2013年であり、その後、両岸関係はより複雑に展開している。現在調査を行えば少し違う結果が得らえるかもしれない。たとえば、この調査結果では、香港、マカオ、中国大陸を加えた選択肢は全体の約9%である。現在は違う結果になるかもしれない。
より深く知りたい点が色々あるが、「台湾本島・澎湖諸島・金門島・馬祖島」が台湾の人々の領土認識の1つになっていることを念頭におくとよさそうである。
参考文献
- 三橋広夫(2012)『これならわかる台湾の歴史Q&A』大月書店。
- 沼崎一郎(2014)『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会。