台湾社会変遷基本調査(Taiwan Social Change Survey)の中から、澎湖諸島の独立に対する評価を確認してみる。
台湾における重要な政治的議題の1つに、台湾が独立すべきから中国大陸と統一すべきか、というものがある。台湾の民主化が進んだ李登輝時代からの議論である。日本における台湾政治に対する言説もこれが少なからぬ部分を占めている。
それでは台湾の内部のエリアが独立することについてはどのような評価がなされるのだろうか。台湾独立と中国大陸統一は、台湾というまとまりで見た場合の対外的問題である。そうではなくて、まとまりの中で独立の声が挙がった場合である。
台湾社会変遷基本調査(中央研究院社会学研究所実施、18歳以上を対象とした全土サンプリング調査)の2013年実施データには、独立か統一かを尋ねた設問の他に、澎湖諸島の独立を認めるか否かを尋ねた設問も含まれている。
澎湖諸島は台湾の南西部に位置する島嶼群であり、澎湖県に含まれる。観光地として知られ、台湾の百貨店などでは澎湖料理コーナーや澎湖物産展を見かけることがある。概略はひとまずWikipediaを参照されたい。
- 澎湖県 - Wikipedia(2021年6月11日取得)
まず、独立・統一に関する調査結果を確認する。同調査には独立・統一に関する複数の設問が含まれているが、ここではその中で最も一般的な内容の設問を取り上げる(表1)。
表1 独立か統一か?(2013年実施のTaiwan Social Change Suvey) | ||
度数 | % | |
できるだけ早く独立を宣言する | 178 | 5.4% |
現状維持し、その後、独立を目指していく | 562 | 29.8% |
永遠に現状維持する | 763 | 40.5% |
現状維持し、その後、統一を目指していく | 345 | 18.3% |
できるだけ早く大陸との統一を宣言する | 37 | 2.0% |
合計 | 1885 | 100.0% |
(出典)傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年6月11日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs13.pdf)の「61.對於未來台灣與中國大陸的關係、有人主張台灣獨立、也有人主張與大陸統一。請問您比較贊成哪一種主張?」(p,217)より寺沢重法作成。DKおよびNA回答は除いてある。 |
現状維持の40.5%はが最も多く、それに独立志向の35.2%(「できるだけ早く独立を宣言する」と「現状維持し、その後、独立を目指していく」の合計)、中国大陸統一を志向の20.3%が続くである(「現状維持し、その後、統一を目指していく」と「できるだけ早く大陸との統一を宣言する」の合計)である。見解は三者三葉であり、独立─統一のみで見た場合、独立の方が多いように見受けられる。
次は澎湖諸島の独立に対する評価である。澎湖諸島の人々が投票で独立を求めた場合その権利を認めるか否かを尋ねている(表2)。 台湾独立と澎湖諸島独立に関するそれとでは、質問形式が異なるため、厳密な比較ではなく、大まかな傾向の把握にとどめたい。
表2 澎湖諸島の独立を認めるか?(2013年実施のTaiwan Social Change Suvey) | ||
度数 | % | |
とても賛成する | 78 | 4.4% |
賛成する | 635 | 35.8% |
賛成しない | 798 | 45.0% |
とても賛成しない | 262 | 14.8% |
合計 | 1773 | 100.0% |
(出典)傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年6月11日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs13.pdf)の「74.有人認為,如果澎湖的居民透過公民投票希望獨立,請問您同不同意他們應該有獨立的權利?」(p,228)より寺沢重法作成。DKおよびNA回答は除いてある。 |
賛成と不賛成に二分すると、不賛成が59.8%(「賛成しない」と「とても賛成しない」の合計)、賛成が40.2%(「「賛成する」と「とても賛成する」の合計」)である。また、「とても賛成する」と「とても賛成しない」を比べると後者が多い(4.4%、14.8%)。賛否両論であり、かつ不賛成が若干勝っている様子がうかがわれる。
以上、台湾独立・大陸では独立が若干多いのに対して、澎湖諸島独立については不賛成が多いようである。独立や自治という点においては同じだが、何が、誰が独立するかを加味した場合、一枚岩的社会意識ではないようである。この結果の意味を解釈するのは容易ではない。だが、台湾独立という言説を見る場合、このような多面性も視野に入れた方がよいと推察する。
参考文献
- 傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年6月11日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs13.pdf)