「誰が東京オリンピック・パラリンピックに賛成し、反対するのか」(高峰2019)

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 コロナ禍の現在、東京五輪開催の支持─不支持をめぐって連日議論がなされているためである。政策的議論も大事だが、同時に人々が五輪開催をどう見ているかについても視野にいれる必要がある。本論文は2018年に東京都大島町で行われた調査票調査の分析であり(pp.215-217)、貴重である。

 震災から復興というスローガンを人々がどう捉えているかが調査テーマの柱である(p.215)。そのような目的により、かつて災害を経験した大島町が選ばれている(pp.214-215)。

 主な調査項目は東京五輪開催の賛否とその理由、興味、期待、震災復興の効果に対する評価、社会人口学的属性、価値観などである。価値観については「日本人であることの誇り」「競争主義」「環境保護主義」「男女平等主義」が取り上げられている(pp.227-228)。クロス集計が行われている。

 東京五輪開催の賛否の回答結果は、「賛成」が47.9%、「どちらかというと賛成」が31.1%、「どちらかというと反対」が16.4%、「反対」が4.5%である(「図2 東京オリンピックパラリンピック開催の賛否(n=286)」(p.218))

 総体的な知見を見ると、賛成派と反対派は3グループに大別することができるという(pp.230-232)。

 1つ目のグループは「東京2020賛成グループ」(「賛成」)であり、高卒者、日本人としての誇りを抱く人、競争主義的価値観をもつ人などに特徴的である(p.230)。

 2つ目のグループは「東京2020賛否に中庸グループ」(「どちらかというと賛成」)であり、明確な特徴は見受けられない(p.231)。

 3つ目のグループは「東京2020反対グループ」(「どちらかというと反対」と「反対」)であり、大卒以上、日本人としての誇りを感じない人、競争主義に批判的な人、五輪への関心がなく、効果に期待しない人などに特徴的である(pp.231-232)。

雑感

  • 賛成、中庸、反対の構成を見ると、2018年の段階で、東京五輪に対する賛否が割れている様子がうかがわれる。これは日系BPコンサルティングが2014年に実施した調査にも通じるところがある(

    2020年東京オリンピックへの興味・関心は全体の6割で、年代による差が大きい | 日経BPコンサルティング(2021年6月17日取得))。コロナ禍の現在、開催支持派と中止派に分かれているが、コロナ以前でもすでに分かれていた可能性がある。コロナ以降の賛否とコロナ以前の賛否はどのような関係にあるのだろうか。

  • 教育達成や競争主義などの特徴が見られる点が重要に思われる。五輪の効果に対する期待感などの違いもあるが、単純にそれらには収斂しきれない問題が絡んでいる可能性があるためである。東京五輪開催をめぐる賛否には、社会集団の違いが何らかの形で関連しているのではないだろうか。この点はコロナ禍での開催─中止を見る上でも視野に入れる必要があると思われる。
  • 社会人口学的属性と価値観の間の関連も推察されるため、それらを考慮したより詳しい知見も知りたいところである。