「社会学で見る現代台湾社会」(北海道大学全学教育「社会の認識」、2015年度後期)で提示したイントロダクション用資料をここに掲載してみる。講義目的、参考図書、授業計画などから構成される。レポート課題の資料も掲載する。台湾を理解するための一助となれば幸いである。
掲載にあたって、書式や表記などをブログに適するように変更した。新しい情報も増えつつあるが、当時の状況を鑑みて原則そのまま記載することにした。資料にはリンクを埋め込むとともに、入手困難なものは削除した。一部、表現を加筆修正した。
なお、本記事は以下の過去記事とも関連する。
- 日本の台湾研究を知るための検索システム、レビュー論文 - 寺沢重法のブログ
- 台湾の階層研究に関する論集・テキスト - 寺沢重法のブログ
- 日本における近年の金門島研究をいくつかピックアップしてみると・・・・ - 寺沢重法のブログ
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北海道大学全学教育「社会の認識:社会学で見る現代台湾社会」(2015 年度後期、月 5) 寺沢重法 15/9/28
第1回「イントロダクション 台湾の概要」
※本資料は上記講義題目の中の「イントロダクション」の部分のみレジュメにまとめたものです。
0 今日のテーマ
(1)教員の自己紹介
(2)授業のオリエンテーション(授業計画、スケジュール、成績評価、参考図書など)
(3)台湾の概略(地理、自然、名称など)
1 教員の自己紹介
【名前】寺沢重法(てらざわ しげのり)
【専門】社会学 社会意識論 台湾研究 宗教社会学 歴史社会学 精神的健康 エスニシティ研究
【研究】(1)どのような社会層の人々がどのような宗教意識をもち、そして宗教意識がどのような価値観と結びついているのか?(2)台湾の人々が日本統治時代や歴史的事件(二二八事件/美麗島事件)をどのように評価しているのか?(3)台湾におけるエスニシティと社会意識の関係
【地域】台湾 日本 香港
【手法】大規模な調査票調査データの統計的分析
2 授業のオリエンテーション
●キーワード
台湾研究 植民地時代 地域研究 社会学 社会史 社会変動 族群(エスニシティ) 日本イメージ
●授業の目標
高校までの社会科では台湾はあまりなじみのない地域かもしれない。しかし台湾は約50 年間日本統治下にあり、現在もしばしば「親日的」と評される。近年は台湾から多くの観光客が北海道を訪れている。戦後の台湾は急速な経済発展や民主化をとげている。一方で台湾は族群(エスニシティー)、歴史認識、中国との関係などにおいて複雑な問題も抱えている。こうした重要な地域である台湾について、歴史、文化、社会などの様々な側面から、特に社会学の視点を用いつつ論じていく。各回の講義は近年刊行された重要な研究成果、教員自身の分析結果、ドキュメンタリー、映画などを取り上げながら構成されるを難易度としては台湾入門/地域研究入門に相当する。(なお授業題目には「社会学」とあるが、広く人類学や歴史学などの研究成果も参照する。また、社会学の理論・方法論そのもの習得は目指さない)
●到達目標
(1)現代台湾社会についての見識を深める。
(2)台湾における日本統治時代への評価、対日感情を多面的に理解する。
(3)以上を通じて海外の社会現象を社会学的な視点から理解する。
●授業計画
(1)授業は講義形式で行う。内容は各回のテーマに関する比較的新しい調査研究(フィールドワーク、インタビュー、歴史資料に基づいた研究)を取り上げる(パワーポイント使用)。
(2)講義のはじめに台湾で刊行されている新聞記事(英文)などをいくつか紹介し、台湾の最新の社会現象に触れてみる(10〜15 分程度)。
(3)授業内容をよりよく理解するために、映画やドキュメンタリー映像などを使用する回がある。
※授業の後半部分でレスポンスペーパーを書いてもらう回がある。
※講義スライドは原則として配布しない。
●準備学習(予習・復習)等の内容と分量
予習・復習:特に予習は必要ないが、日頃から台湾に関するニュースや新聞などに触れたり、授業中に紹介した参考文献などを読んだりするなど、受講生自らが進んで発展学習を行うとよい。授業内容をよりよく理解するために、事前に簡単な読書課題を課す場合がある。(成績には含めない、詳細は後述)。
●成績評価の基準と方法
授業参加度(50%)と、期末レポート(50%)により評価。現時点での期末レポートの予定としては、教員が授業に関連のある論文を数本を指定し、その中から最低1つの論文を読んでレビューを行ってもらう予定である。
●テキスト・教科書・講義指定図書
テキストはなし。以下の図書を講義指定図書として推薦する。
- 沼崎一郎(2014)『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会。⇒オススメ 本講義の第1回~第7回は主にこの文献に沿いながら行う。
- 亜洲奈みづほ(2003)『現代台湾を知るための 60 章 』明石書店。※現在は新版が刊行されているが、当時の資料であることから、ここでは第2版を記載する。
- 若林正丈編(1998)『もっと知りたい台湾』弘文堂。
- 笠原政治・植野弘子編(1995)『暮らしがわかるアジア読本 台湾』 河出書房新社。
その他の台湾関係書籍については「台湾を学ぶための文献リスト(2015 年度)」を配布。
●授業スケジュール
講義内容は以下の2パートに分けられる。
(1)台湾社会入門:台湾社会の変遷を、オランダ統治時代から現代まで通史的に確認
(2)台湾は「親日的」か?:台湾の人々が日本(特に植民地時代)をどう認識しているのか?
授業スケジュール
※各回の題目の下に記載した文献は、それぞれの回の内容と関連の深い文献である。読むことは必須ではないが、講義内容をより深く理解するのに役立つだろう。
1(9/28)イントロダクション 台湾の概要
- 沼崎一郎(2014) 「「台湾」─名称、自然、地理」『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会:1-13。
2(10/5)オランダ統治時代/鄭氏統治時代/清朝統治時代
- 沼崎一郎(2014) 「オランダ統治時代から清朝統治時代まで─二元・二層構造の誕生~」『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会 :15-30。
3(10/15※月曜授業)日本統治時代
- 沼崎一郎(2014) 「日本植民統治の時代─二元・二層構造の確立と徹底」『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会:31-49。
- 亜洲菜みずほ(2003)「近くて「近い」隣国」『現代台湾を知るための 60 章』明石書店 :19-23。
- 魏德聖(2011)『セデック・バレ』。
4(10/19)蒋介石時代①(1)戦後~二二八事件
- 沼崎一郎(2014)「蒋介石の時代─二元・二層構造の持続」『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会:51-74。
- 植野弘子(1995)「二・二八事件」植野弘子・笠原政治編『暮らしがわかるアジア読本 台湾』河出書房新社:45。
- 侯孝賢(1989)『悲情城市』。
- 沼崎一郎(2014)「蒋介石の時代─二元・二層構造の変容と溶解」『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会:51-74。
- 沼崎一郎(1995)「企業家たちのネットワーク」植野弘子・笠原政治編『暮らしがわかるアジア読本 台湾』河出書房新社:140-156。
- 酒井充子(2009)『台湾人生』。
6(11/2) 蒋經国時代/李登輝時代
- 沼崎一郎(2014) 「蒋經国の時代─二元・二層構造の持続」『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会 :75-91。
- 亜洲菜みずほ(2003)「「民主化の父」の試み」『現代台湾を知るための 60 章』明石書店:71-75。
7(11/9)政権交代の時代~現代
- 沼崎一郎(2014) 「政権交代の時代─多元・多層構造の誕生」『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会:93-112。
- 亜洲菜みずほ(2003)「新中間路線」『現代台湾を知るための 60 章』明石書店:57-60。
8(11/16)台湾は「親日的」か?(1)日本語世代の記憶
9(11/30)台湾は「親日的」か?(2)日本統治時代における日本語の意味
- 五十嵐真子(2011)「日本語世代の語りの中の「日本」」植野弘子・三尾裕子編『台湾における<植民地>経験』風響社:185-214。
- 樋口靖(1995)「国語と台湾語」植野弘子・笠原政治編『暮らしがわかるアジア読本 台湾』河出書房新社:28-35。
10(12/7)台湾は「親日的」か?(3)八田輿一の物語
- 胎中千鶴(2007)『植民地台湾を語るということ─八田輿一の「物語」を読み解く』風響社。
- 林美容(1995)「台湾史ブームの背景」植野弘子・笠原政治編『暮らしがわかるアジア読本 台湾』河出書房新社:46-52。
11(12/14)台湾は「親日的」か?(4)古蹟に見る日本・中華・中国イメージ
- 上水流久彦(2011)「台北古蹟指定にみる日本、中華、中国のせめぎ合い」植野弘子・三尾裕子編『台湾における<植民地>経験』風響社:25-53。
- 亜洲菜みずほ(2003) 「台湾島再発見」『現代台湾を知るための 60 章』明石書店」:222-226。
12(12/21)台湾は「親日的」か?(5)故宮博物院における中華
- 松金公正(2011)「台北故宮における「中華」の内在化に関する一考察─国立故宮博物院組織法の制定を中心に」植野弘子・三尾裕子編『台湾における<植民地>経験』風響社:55-98。
- 國立故宮博物院
13 (1/12※月曜授業) 台湾は「親日的」か?(6)八重山と台湾
- 黄智慧(2007)「環「東台湾海」文化圏における島際関係史─与那国島を中心に」「沖縄海人文化の系譜」報告書』財団法人海洋博覧会記念公園管理財団:7-11。
- 北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」企画(2011)『知られざる南の国境八重山・台湾』北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」。
14(1/18) 台湾は「親日的」か?(7)誰が日本統治時代を肯定的に評価しているのか?
- 寺沢重法(2015)「現代台湾において日本統治時代を肯定的に評価しているのは誰か?─「台湾社会変遷基本調査」の探索的分析」『日本台湾学会報』17:226-240 。
15(1/25)授業のまとめ/レポート提出/授業アンケート
16(2/1)<予備日>
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以下は、第11回で提示したレポート課題である。レビュー方法に関する補足資料も同時に提示した。これも掲載する。掲載にあたって、一部、加筆修正、表現の変更を行った。
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レポート課題
第 11回 社会の認識:社会学で見る現代台湾社会
寺沢重法 2015年12月14日
課題 以下の<論文リスト>に提示した論文の中から 1 篇の論文を選び、そのレビューを行う(2編以上を取り上げても全く構わない)。論文および書評の実例は、フリーアクセス・閲覧可能である(CiNii、学会サイト、著者の公式サイト)。各自でアクセスして読むこと。
書式 A4 で 2000 字以上。1枚当たりの文字数や余白、フォントなどは自由。
提出 2016 年 1 月 25 日(第 15 回)の授業時に印刷したものを持参。授業開始時に集める。
【論文リスト】
- 蕭阿勤(2014)「国民を渇望する─1980~1990 年代台湾民族主義の文化政治」『中国 21(特集:ナショナリズムと歴史認識)』39:81-104。
- 北村嘉恵(2010)「『台湾原住民族にとっての霧社事件』を問う」『日本台湾学会報』12:29-44。
- 黄智慧(2012)「台湾における日本観の交錯─族群と歴史の複雑性の視角から」王敏編『地域発展のための日本研究─中国、東アジアにおける人文交流を中心に』勉誠出版:43-69。
- 藤井健志(2007)「戦後台湾における日本宗教の展開」『宗教と社会』13:105-127。
※1と2は授業の前半パートに関する論文です。1は現代台湾に関する論文、2は日本統治時代の霧社事件に関するものです。1は民主化・本土化期の台湾における政治・文化の変容を包括的に論じた論文です。2は日本台湾学会開催の霧社事件に関するシンポジウムの発表の1つです。歴史学・口述史の観点から論じています。3と4は授業の後半パートに関するものです。3は台湾にける日本観、台湾は親日的か否かについて、台湾社会の変容に着目しつつ論じています。4は戦後台湾で展開した五本の新宗教)の趨勢を論じています。宗教社会学の観点から日台関係を検討したものです。
論文・書籍のレビューの執筆
※以下の構成は、あくまで書き方の1つです。必ずしもこのスタイルに沿って書かなければならないというわけではありません。
(1)論文・書籍の内容の紹介
全体的な紹介(どのような目的の論文・本なのか etc)/各章・節の簡単な要約
(2)論文・書籍に対するコメント
良い点(読みどころ、読んで考えたこと etc)(授業内容を踏まえてのコメント・感想も OK)/改善点(より詳しく知りたかったところ、さらに深く検討すべきポイント etc)
※レビューの実例を読んでみたい受講生には、一例として以下のレビューを紹介しておきます。
【レビューの例】
- 赤枝尚樹(2012)「書評:『社会調査のための統計学』神林博史・三輪哲著、技術評論社、2011年、247 頁、2089 円(税込)」『理論と方法』27(1):192-194。
- 柿澤未知(2005)「書評:王甫昌著『當代台灣社會的族群想像』台北、群學出版有限公司、2003年、x+195pp」『アジア経済』』XLVI‐4:102-106。