台湾の「支持政党なし」「無党派層」に注目する必要性

 台湾は政治的に活発なイメージがあるかもしれない。たとえば、作家の李琴峰氏は、社会運動や政治参加を台湾社会の重要な側面の1つとして論じている。

gendai.ismedia.jp 2021年9月25日閲覧

 また、総統選挙を中心とする台湾の政治が、国民党と民進党の対立を軸に動いてきたことから、党派的な政治がをイメージすることもあるだろう。

 たとえば、台湾ライターの栖来ひかり氏は、コロナ対策に関する政治的動向として、いわゆる「藍」「緑」の対立を指摘する。

toyokeizai.net 2021年9月25日閲覧

台湾政治は大まかに言えば、その支持・志向性によって2つの色に分かれる。1つは中華人民共和国に融和的な「藍」陣営と、リベラル的な政治志向をもち台湾の主体性を志向する「緑」陣営(現在の与党・民主進歩党も緑)だが、「網軍」はどちらにも存在する。つまり、台湾では日々熾烈な情報戦が双方で繰り広げられているということだ。

(出典)「台湾に送ったワクチンで大量死」報道の真相 | 新型コロナ、長期戦の混沌 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース(2021年9月25日閲覧)

 こうした情報に接すると、台湾では人々の政治や社会運動に対する関心が高く、二大陣営に分かれる激しい政治的議論がなされているような印象をもつかもしれない。

 本記事では、全土規模のサンプリング調査における政党に対する態度を確認し、台湾の政治状況を補足してみたい。

 2020年に刊行された台湾社会変遷基本調査の最新版を確認する。なお、同調査はコロナ化の台湾で実施されたという点においても貴重である。

shterazawa.hatenablog.com 2021年9月25日閲覧

 まず、支持政党をまとめたのが(表1)である(以下、表中の政党名は繁体字で記載する)。

表1 台湾における支持政党(2020年)
  度数 %
國民黨 290 15.6%
民進 457 24.6%
親民黨 18 1.0%
台聯 1 0.1%
新黨 4 0.2%
時代力量 51 2.7%
台灣民眾黨 74 4.0%
綠黨  9 0.5%
台灣基進 31 1.7%
都支持(全て支持する) 117 6.3%
都不支持(全て支持しない) 680 36.7%
不知道(わからない) 80 4.3%
拒答(答えたくない) 43 2.3%
合計 1855 100.0%
(出典)吳齊殷・傅仰止・蕭代基主編(2021)『台灣社會變遷基本調查計畫第八期第一次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所。(2021年9月25日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs20.pdf)の「「89. 在國民黨、民進黨、親民黨、台聯、新黨、時代力量、台灣民眾黨、綠黨、台灣基進這九個政黨中,請問您比較支持哪一個政黨呢?」(p.227)より寺沢重法作成。

 民進党が24.6%、国民党が15.6%であり、「緑」が勝っている傾向がうかがわれる。ただし、全て支持しない人が最も多いことに注目する必要があろう(36.7%)。いわゆる「支持政党なし」「無党派層」に相当する人々だと推察する。

 次に、「全て支持する」「全て支持しない」「わからない」「答えたくない」を選択した回答者については、次の設問で、どの政党寄りなのかを尋ねている(表2)

表2 台湾のどの政党寄りか?─支持政党を明示しない回答者のみ(2020年)
  度数 %
國民黨 55 6.0%
民進 71 7.7%
親民黨 2 0.2%
台聯 1 0.1%
新黨 1 0.1%
時代力量 3 0.3%
台灣民眾黨 8 0.9%
綠黨 2 0.2%
台灣基進 2 0.2%
都不偏(どの政党寄りでもない) 731 79.5%
その他 1 0.1%
不知道(わからない) 19 2.1%
拒答(答えたくない) 24 2.6%
合計 920 100.0%
(出典)吳齊殷・傅仰止・蕭代基主編(2021)『台灣社會變遷基本調查計畫第八期第一次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所。(2021年9月25日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs20.pdf)の「90. 請問您比較偏向國民黨、偏向民進黨、偏向親民黨、偏向台聯、偏向新黨、偏向時代力量、偏向台灣民眾黨、偏向綠黨、偏向台灣基進、或是都不偏?」(p.228)より寺沢重法作成。問90で非該当とされたケースは除外した。

 最も多いのは、どの政党寄りでもないと回答した人々である(79.5%)。民進党は7.7%、国民党が6.0%であり、支持政党を明示しない人においても、どちらかといえば「緑」寄りである。だが、いずれも10%未満であり、どの政党寄りでもないと回答した約80%に比べるとわずかなものであると推察する。

 最後に、政治に対する関心度を確認する(表3)

表3 台湾における政治に対する関心(2020年)
  度数 %
とても関心がある 43 2.3%
まあまあ関心がある 348 18.8%
あまり関心がない 623 33.7%
全く関心がない 834 45.1%
合計 1848 100.0%
(出典)吳齊殷・傅仰止・蕭代基主編(2021)『台灣社會變遷基本調查計畫第八期第一次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所。(2021年9月25日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs20.pdf)の「91. 請問您個人對政治有沒有興趣?」(p.228)より寺沢重法作成。90で非該当とされたケースは除外した。DK・NA回答は除外した。

 「全く関心がない」(45.1%)>「あまり関心がない」(33.7%)>「まあまあ関心がある」(18.8%)>「とても関心がある」(2.3%)という順である。

 「まあまあ関心がある」と「とても関心がある」を「関心がある」にまとめると、21.1%であり、「全く関心がない」と「あまり関心がない」を「関心がない」にまとめると、78.8%である。程度の差こそあれ政治に関心がない人が約80%であり、特に関心のある人はごく少ない様子がうかがわれる。

感想

  • 「藍」と「緑」、または国民党と民進党という個別政党の支持において、台湾全体の少なからぬ部分を占めるのは「無党派層」「支持政党なし」である。どの政党寄りでもないも少なからぬ部分を占めている。
  • 台湾の政治を論じる場合、確かに二大政党の動向は重要だが、社会意識レベルで見る場合は「無党派層」「支持政党なし」にもっと注目していく必要がある。
  • 政治に関心をよせない人々が少なくない。そうであるならば、政治に関心のない人々を射程にいれた議論も求められよう。
  • 政党支持という指標では拾いきれないもの、たとえば、民主主義的価値観や個別政策に対する意識をより積極的に見ていく必要がありそうである。「無党派層」「支持政党なし」の政治意識をどう把握するかも重要な課題だと思われる。

参考文献