『嗜好品の謎、嗜好品の魅力』(成蹊大学文学部学会編・小林盾・中野由美子責任編集2018)

 
更新2021年5月13日 

   嗜好品を包括的に取り上げた代表的書籍としては、これまでに『嗜好品文化を学ぶ人のために』『嗜好品の文化人類学』が刊行されており、事典には『世界嗜好品百科』を挙げることができる(高田・嗜好品文化研究会編2008;高田・他編2004;松浦いね・たばこ総合研究センター編2004)。

 副題にある通り、本書は主に高校生に向けて書かれた入門書であり、かつ歴史学と日本語学と社会学への入門諸でもあるが、読者対象は必ずしも高校生に限定されないように思われる(本書の書評に松井(2018)年がある)。
 取り上げられる嗜好品は、コーヒー(第1章)、チョコレート(第2章)、酒(第3章)、たばこ(第4章、第9章)、肉(第6章)、和菓子(第7章)である。第5章と第8章は調査票調査を用いて嗜好品に対する好みを尋ねたものであり様々な嗜好品が対象となっている。
 私にとって特に印象的だった点を挙げてみる。まず調査票調査を駆使した論考が収録されている点である。第5章ではインドネシア、第8章では日本で実施された調査票調査をそれぞれ主軸において論じている。この二つの章を読み比べてみることで、特により一層、両社会の共通点と差異点がより一層見えてくるに違いない。比較社会学的な読み方も可能だと思われる。
 たばこを取り上げた第4章と第9章を合わせて読むのもよいかもしれない。前者はアメリカにおけるたばこを巡る論争、後者は日本におけるたばことスポーツの関連が関係が論じられる。メディアやポスターなどが分析される。たばこを巡る議論とイメージがどのように変化してきたのか、その歴史的過程を知ることができるだろう。
 歴史という点については第7章の和菓子の分析も印象的であった。日本語学の立場から和菓子の包装紙等に見られる文字の変化を辿っている。日本で使われてきた様々な文字の種類やその読み方を知ることができる。
 本書全体を通じて共通するのは、問いを投げかけその答えを探すという形で議論が進められることである。問いを立てる面白さを感じることができるに違いない。
 以上、印象的に感じた点を列挙してみたが、本書の魅力はこれにとどまらない。一点、ないものねだりになってしまうが、水たばこやビンロウといった日本ではあまり馴染みのないと思われる嗜好品についても、もう少し取り上げて欲しかったように思われる。
 総じて本書は嗜好品の優れた入門書である。冒頭で挙げた書籍とともに嗜好品研究の必読書になるに違いない。
参考文献
  • 高田公理・嗜好品文化研究会編(2008)『嗜好品文化を学ぶ人のために』世界思想社
  • 高田公理・栗田靖之・CDI編(2004)『嗜好品の文化人類学講談社
  • 松浦いね・たばこ総合研究センター編(2004)『世界嗜好品百科』山愛書院。
  • 村井重樹(2018)「書評 『嗜好品の謎、嗜好品の魅力:高校生からの歴史学・日本語学・社会学入門』成蹊大学文学部学会編 風間書房2018年248ページ」『理論と方法』33(2):370。