更新2021年5月12日
Rを用いてネットワーク分析を学ぶ書籍。初版は2010年であり、本書はその改訂版である。ネットワーク分析を巡る状況はSNSに代表されるように少なからず変化してきており、また、Rによる分析方法もいろいろと変わってきているという(pp.v-vi)。本書はこのような変化に対応する形で執筆されている。目次を見て、本書の概要を確認してみる(章と付録の部分のみ)。
- 第1章 ネットワークデータの入力
- 第2章 最短距離
- 第3章 ネットワーク構造の諸指標
- 第4章 中心性
- 第5章 ネットワーク構造の分析
- 第6章 ネットワークの類似性
- 第7章 統計的ネットワーク分析
- 第8章 社会ネットワークの調査分析法
- 第9章 ソーシャル・メディアのネットワーク分析
- 第10章 複雑ネットワークのシミュレーション
- 第11章 ネットワーク描画
- 付録A Rの基礎知識
- 付録B 数学の基礎知識
この中で最も目を引いたのは「第9章 ソーシャル・メディアのネットワーク分析」である。SNSの分析である。必要なコマンドもわかりやすく書かれており、自らがT分析の実際をを体験することができるのではないだろうか。また、本章の後半部ではテキスト、単語を用いてネットワークを分析する方法が、文学作品の分析も例として挙げながら解説している(pp.93-261)。この方法は、文学研究等の人文科学において特に興味深いと思われる。続けて第11章のビジュアル化方法を読むと、ネットワーク分析の面白さがより一層感じられるに違いない。
社会調査データ分析については、「第8章 社会ネットワークの調査分析法」が最も直結しようか。General Social Survey(GSS)というアメリカの二次データの中のネームジェネレーター項目を実際例としながら、社会ネットワークの分析が解説されている(pp.223-234)。日本におけるネーム・ジェネレーターを用いた近年研究として赤枝(2015)がある。赤枝(2015)で実際に触れながら本書に取り組んでみると、社会ネットワークの分析の持ち味をより感じることができる(社会ネットワーク分析の特集に藤山・鈴木(2018)がある)。
また、社会現象を行列演算を用いて捉える視角を習得する上でも貴重であると思われる。行列演算を用いた社会分析のための書籍としてBradley and Meek (1986=1996)があるが、本書はまさにその先端的書籍に位置づけられるだろう。付録でRと数学の基礎を確認し、第1章から一つずつコマンドを打ち込んで読破すれば、行列演算を通じて社会現象を見るという行為と認識を十二分に体感できるに違いない。
参考文献