「台湾人か中国人か」よりも「どこまで中国人なのか」なのだろうか?(2013年)

nordot.app 2021年9月25日閲覧

 台湾の人々が自分を台湾人だと思うか、中国人だと思うかについてのメモ。

 冒頭の記事は国立政治大學の調査結果を紹介したものである。同調査では「台湾人」「中国人」「台湾人でも中国人でもある」に関する設問が組み込まれ、「台湾人」と答える人が少なくないという結果が示されている(63.3%)。一方、「中国人」と答える人はかなり少ないことも示されている(2.7%)。

 この設問は台湾の政治意識を測定するための重要な指標の1つとして認識されてきた。たとえば、小笠原(2021)によると、台湾の政治意識は、台湾の独立を志向するか大陸との統一を志向するかとい両岸関係に関わる軸、自らを台湾人だと思うか中国人だと思うかという自己認識に関わる軸という2つを中心に考えることができる(小笠原2021:28)。政治大學の調査にもこの設問が含まれており、長期にわたる信頼性の高いデータとして蓄積されている(小笠原2021:28)。

 ただ、ここで私が気に掛かるのは、質問の仕方によって回答が変わる可能性もあるのではないだろうか、という点だ。調査票の作成方法の議論である。

 そこで、本記事では、本ブログでたびたび取り上げてきた台湾社会変遷基本調査(Taiwan Social Change Survey)の中から、質問の仕方が異なる調査項目を確認してみたい(2013年実施の国家認同モジュール)。

 まず、台湾人か中国人かを尋ねた質問の結果である(表1)。

表1 台湾人か、中国人か(2013年)
  度数 %
台湾人 1439 74.4%
中国人 22 1.1%
両方 472 24.4%
合計 1933 100.0%
(出典)傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年9月25日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs13.pdf)の「57. 目前社會上有人會說自己是台灣人、有人會說自己是中國人、也有人會說兩者都是。請問您認為自己是台灣人、中國人還是兩者都是?」(p,214)より寺沢重法作成。選択肢は「台灣人」「中國人」「兩者都是」である。DKおよびNA回答は除いてある。

 自分を台湾人だと思う人が最も多く(74.4%)、台湾人と中国人の両方だと思う人が次に多く(24.4%)、中国人だと思う人が最も少ない(1.1%)。冒頭の政治大學調査に沿う結果であり、小笠原(2021)の分析結果にも沿っている(小笠原2021:28-32)。

 次は、台湾人と中国人のそれぞれについての自己認識を尋ねた結果である。この設問では台湾人と中国人のそれぞれについて、「0」を全くそう思わない、「10」を完全にそう思うとする10件法で尋ねている。

 台湾人か中国人かを尋ねる設問は、両者を択一的に捉えていたのに対し、こちらはそれぞれを別の指標と捉えてグラディエーションを測定する設問と考えられよう。

 結果は表2の通りである。

表2 台湾人と中国人のそれぞれについて自分はどこまでそうだと思うか(2013年)(0=全くそう思わない~10=完全にそう思う)
  台湾人?(問58) 中国人?(問59)
  度数 % 度数 %
0 5 0.3% 666 35.0%
1 2 0.1% 102 5.4%
2 2 0.1% 118 6.2%
3 4 0.2% 123 6.5%
4 2 0.1% 48 2.5%
5 90 4.7% 364 19.1%
6 68 3.5% 60 3.2%
7 110 5.7% 58 3.0%
8 201 10.4% 61 3.2%
9 104 5.4% 19 1.0%
10 1343 69.5% 283 14.9%
合計 1931 100.0% 1902 100.0%
(出典)傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年9月25日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs13.pdf)の「58. 請您用0至10分來表示您自認為是台灣人的程度、10分表示「完全是台灣人」、0分表示「完全不是台灣人」と請問您會選幾分?」「59. 請您用0至10分來表示您自認為是中國人的程度、10分表示「完全是中國人」、0分表示「完全不是中國人」。請問您會選幾分?」(p,214)より寺沢重法作成。DKおよびNA回答は除いてある。0はそれぞれ「完全不是台灣人」「完全不是中國人」、10はそれぞれ「完全是台灣人」「完全是中國人」である。

 どの程度台湾人だと思うか(台湾人?(問58))で最も多いのは「10」である(69.5%)。約70%の人が自分は完全に台湾人であると認識している傾向が推察される。自分は全く台湾人ではないと回答した人(「0」)は0.3%である。「2」から「4」も1%未満である。

 仮に「0」から「4」を台湾人だと認識していない人と見なすと、該当するのは0.8%である。「5」を中間回答とみなすと、4.7%が該当し、「6」~「10」を台湾人と認識する人と見なすと、94.5%が該当する。程度の差こそあれ、約95%の人が自分を台湾人と認識している様子がうかがわれる。

 どの程度中国人だと思うか(中国人?(問59))で最も多いのは、自分を全く中国人だと思わない人(「0」)である(36.0%)。次いで「5」が多く(19.1%)、完全に中国人だと思う人(「10」)がこれに次ぐ(14.9%)。

 台湾人と同様に、「0」から「4」を全く中国人だと認識していない人、「5」を中間回答、「6」から「10」を完全に中国人だと認識する人と見なした場合、それぞれ55.6%、19.1%、25.3%である。程度の差こそあれ自分を中国人だと思わない人が半数を超えているとともに、中国人だと思う人やどちらともいえないと思う人も一定数いる様子がうかがわれる。

 台湾人かどうかの自己認識に比べて、中国人かどうかの自己認識は回答のばらつきが相対的に大きいように思われる。

感想

  • 「台湾人か中国人か」を択一的に尋ねた場合は、確かに台湾人だと思う人が多く、中国人だと思う人は少ないようである。
  • 一方で、「どこまで台湾人か」「どこまで中国人か」といったように、台湾人と中国人を別の軸として尋ねると、判断は複雑になる。
  • 台湾人かどうかと聞かれれば台湾人だと思うものの、では中国人かどうかと聞かれると判断に迷う、というところだろうか。
  • 「台湾人」「中国人」「台湾人でも中国人でもある」は具体的にどのようなアイデンティティなのだろうか。「どこまで台湾人か」「どこまで中国人か」との関連をみることでもう少し詳しくわかるかもしれない。

参考文献

初体験における性的快感に関するレビュー論文(Boydell et al. 2021)

  • Boydell, Victoria, Kelsey Q. Wright & Robert D. Smith (2021) A Rapid Review of Sexual Pleasure in First Sexual Experience(s), The Journal of Sex Research, 58:7, 850-862, DOI: 10.1080/00224499.2021.1904810

 Journal of Sex Researchの最新号に掲載されていたレビュー論文。

 約20篇の論文が対象である。性的快感の意味づけ、ジェンダー差、初体験がその後の性行為に対してどのような関連をもつのか、性教育に対するインプリケーションなどが論じられている。

「「一夜限り」が増加?激変する米国の恋愛事情」(東洋経済オンライン2015年11月17日)

toyokeizai.net  2021年9月13日閲覧

 アメリカにおけるミレニアルズ世代の恋愛や性意識などを解説した記事。

 ソーシャル・メディアやスマホの普及などを背景要因が論じられている。

 hookup cultureの事情に言及されている。

お酒の席で会いそのままいっしょに飲んで、ほとんどがその場限り。肉体関係になることもありますが、それもほとんどが一夜限り。

<中略>

いま米国では大学生を中心に常態化していると言われていて、こうした文化をフックアップ・カルチャーと呼ばれています。フックアップはすでに大学を卒業した若者の間でも行われています。

 

(出典)「一夜限り」が増加?激変する米国の恋愛事情 | ミレニアルズ世代の真実 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース(2021年9月13日閲覧)

「愛煙家「居場所失った」と提訴 改正健康増進法めぐり―東京地裁」(時事ドットコム2021年9月10日)

www.jiji.com 2021年9月10日閲覧

 改正健康増進法に関連して、国に対する訴訟が生じている。

喫煙者自体が社会から排斥されるべき存在のようなメッセージが国から発せられて、個人としての尊厳を傷つけられたと主張した。

 

(出典)愛煙家「居場所失った」と提訴 改正健康増進法めぐり―東京地裁:時事ドットコム(2021年9月10日閲覧)

 禁煙推進が喫煙者に対する排斥や差別を助長する可能性については、学術研究で指摘されてきた。

shterazawa.hatenablog.com  2021年9月10日閲覧

 禁煙推進が排斥に転じ得る可能性は、横浜副流煙裁判が示唆していると思われる。

shterazawa.hatenablog.com   2021年9月10日閲覧

『謎の島・台湾 別冊宝島127』(1991)

 別冊宝島シリーズの中の1冊。刊行は1991年であり、約30年前の「台湾本」である。書影には「ベンツに乗りロレックスで身をかためる七十万人の社長たちがいる」という言葉がある。

 「第一部 台湾のススメ」「第二部 日本植民統治を再検証する」「第三部 台湾の基礎知識」で構成されている。「第一部 台湾のススメ」には料理、繁華街、不動産、街歩き、芸能などのに関する様々なルポルタージュが収録されている。

 今年の5月には、台北の萬華におけるコロナが報じられた。本書には萬華のポルタージュが収録されており(pp.12-27)、1990年代初頭の様子を知ることができよう。

 私の実感としては、近年の日本のメディアにおける台湾の描かれ方は、総じて明るいように思われる。だが、本書を読む限り、そのようなイメージとはいささか異なる印象を受ける。背景要因は、台湾の変化と考えることもできるだろうし、日本における台湾イメージの変化と考えることもできよう(両方もあり得るし、別の要因も考えられる)。

www.asahi.com 2021年9月10日閲覧