診断書発行に対する作田学氏自身のこれまでの見解を整理

 一連の横浜副流煙裁判に関して、医師法に触れる診断書を発行したことについて、日本禁煙学会理事長・作田学氏が、先日刑事告発される運びとなった(『週刊新潮』2021年4月22日号)。作田氏の診断書問題は昨年の『週刊新潮』でも報じられている(2021年2月20日号)。その時の記事の中で作田氏は、自身が発行したのは診断書ではなく意見書であるという旨を述べている(p.39)。

 医師法上の問題が指摘されて以降、作田氏はそれを意見書、証明書といった呼称で説明し、発行する動機や手続きなどにも言及している。

 この問題は横浜副流煙裁判に関する重要なテーマの1つであると考える。横浜副流煙裁判医関するサイト(後で取り上げるサイトなど)などでも言及されている。

 診断書が言及されている資料は複数あり、言及量がいささか多い場合もある。そこで、この記事では、作田氏がこれまで診断書問題にどのような見解を述べてきたのかを、その該当箇所を時系列順に抜粋し、資料としてメモしてみたい。

 対象は以下の2点である。

(1)裁判資料の中で作田氏の署名があり、かつ診断書に言及されているもの。診断の妥当性や適法性について言及した資料ではなく、診断書の呼称、発行手続き、発行動機に言及した資料である。裁判資料という性質を鑑みれば、実質的な公式見解とみることもできると考える。

 参照した裁判資料は藤井敦子氏のサイトにおいてPDFで公開されているものである。本記事の各引用箇所の出典部分に、資料が掲載されている記事のURLを埋め込んだ。

 また、煙福亭氏の下記の記事も参考にしている。

(2)『週刊新潮』所収記事。冒頭で取り上げた2記事だが、この中では作田氏へのインタビューが掲載されている。記事の編集過程で元のインタビュー内容からのずれが生じている可能性も想定されるが、パブリシティ性の高い雑誌に掲載された声として意義があると考える。

 確認されたものを時系列順に並べると以下のようになる。「甲~」と書かれたものが裁判資料であり、いずれも作田氏の署名である。日付は裁判資料に記載された日付と『週刊新潮』巻号を使用している。

  • 2019年3月28日 甲43号証・追加意見書 
  • 2020年1月27日 甲66号の1・意見書
  • 2020年2月22日  「「反たばこ訴訟」で認定された「禁煙学会理事長」の医師法違反」(『週刊新潮』2020年2月22日号、37-39頁、(デイリー新潮にも掲載))
  • 2020年6月21日 甲81号証 被控訴人答弁書に対する所見 
  • 2021年4月22日 「「反たばこ」で診断書も偽造「禁煙学会」理事長が刑事告発された」(『週刊新潮』2021年4月22日号、26-27頁)

 この順に沿って該当箇所を少し長めに引用する。

  • 2019年3月28日 甲43号証・追加意見書

 横浜地裁の第1審のための意見書。

  私はA氏、A奥さん、A娘さんの3名の方々に診断書(甲1~甲3)を作成しておりますが、これらの診断書の作成に関して、今般、藤井将登氏が準備書面(7)の中で、いろいろと疑問を投げかけてこられたとのことなので、その疑問にお答えする趣旨で、追加の意見書を作成させていただきます。

 

(出典)作田学「甲43号証・追加意見書 」(2019年3月28日)(2021年4月19日閲覧)、1頁。下線は寺沢重法が加えた。

 ここでは診断書を作成したと明言されている。 

 その後、横浜地裁第1審判決が下る(2019年11月28日)。現在に至る診断書問題の大きな引き金となった判決である。 判決文を見てみよう。

 なお、作田医師は、原告A娘について、「受動喫煙症レベルIV、化学物質過敏症」と診断しているが(認定事実(3)ウ)、その診断は原告A娘を直接診察することなく行われたものであって、医師法20条に違反するものといわざるを得ず、かかる診断があるからといって、その診断の前提となる身体症状が原告A娘にあったことを認めることはできないが、このことは前記認定を左右するものではない。

 

(出典)横浜地裁第1審判決文(事件番号平成29年(ワ)第4952号損害賠償事件)(2019年11月28日 )(2021年4月19日閲覧)、12頁。下線は寺沢重法が加えた。

 下線部が問題の箇所である。発行された診断書が医師法20条に違反するという点が、以降、『週刊新潮』で報じられ、先日の刑事告訴の根拠となる。そして、作田氏はこの診断書に対する見解を控訴審に関する資料や週刊新潮で述べていくようになる。

  •  2020年1月27日 甲66号の1・意見書

 控訴審のための意見書。

原告A娘さん(以下「A娘」と略します)に対し、私が2017年4月19日に記載し、日赤医療センターより発行した診断書(甲3。以下「本文書」と略します。)は、すでに他の2ヶ所の医療機関から発行された診断書を受動喫煙症の専門家の立場から再点検した書面として位置づけており、「意見書」として取り扱われるべきものである。

<中略>

 以上より、横浜地裁の判決に於いて、上記の事情を勘案せずに、「本文書」を作成した私が、医師法第20条に抵触していると断じているのは、いささか心外である。

<中略>

 なお、日本赤十字社医療センター電子カルテシステムでは「診断書」名義の書類作成・発行は可能であったが、「意見書」名義の書類発行が、出来ない仕様になっていたため、やむを得ず「診断書」名義で、以下の通り書類を作成した。

<中略>

 「上記の通り診断いたします」という文言はコンピューターシステムにあらかじめセットされていたので、やむを得なかった。

<中略>

 医師法第20条の趣旨は、治療の安全性を確保するためとされている。たとえば、千葉地方裁判所平成12年6月30日判決は、患者を診察せず、両親の話から統合失調症と診断した事案について医師法第 20条違反を否定している。

 本文書は「診断書」名目ではあるが、実質的には「意見書」であって、本書の記載内容によって、原告を受動喫煙から保護し、利益を与える可能性があっても、原告に危害や不利益が発生し得る可能性がある、とは言えない。本件は原告に対し、文書の記載内容に基づいた、手術・投薬等、侵襲や副作用の危険性を伴う治療を勧奨、指示するものでもなく、実施もされていない。また本文書にかかわるいかなる人物、団体にも不利益を発生させる目的を有しておらず、また、発生 させてもいない。
 したがって、本文書の記載によって、私が医師法第20条に違反している、とはいえないと考える。

 

(出典)作田学「甲66号の1 意見書」(2020年1月27日)(2021年4月19日閲覧)、1頁。下線は寺沢重法が加えた。

  この資料の中で、診断書ではなく意見書であるという見解があらわれる。また日赤のカルテのシステム上の都合という発行手続きに関する言及もなされる(『週刊新潮』の2記事では触れられていない)。

  • 2020年2月22日 『週刊新潮』 「「反たばこ訴訟」で認定された「禁煙学会理事長」の医師法違反」(2020年2月22日号)、37-39頁

 第1審判決に関連する報道。

書面を精査し、夫婦に聞き取りを行い、書面を一通作成し交付しました。なお、診断はしていません。書面は診断書ではなく意見書です。

 

(出典)「「反たばこ訴訟」で認定された「禁煙学会理事長」の医師法違反」『週刊新潮』(2020年2月22日号)、37-39頁の中の39頁。下線は寺沢重法が加えた。

 発行したのは診断書ではなく意見書であるというコメントが出されている。

  • 2020年6月21日 甲81号証 被控訴人答弁書に対する所見

5 このたびのダイヤモンド・プリンセス号の新型コロナウイルスは大変な事でした。
薬が足りないということになり、船員が持ってきた用紙に患者自身が病名と薬品名を書いて渡し、それに応じて薬品を配って歩いていったことが新聞にも大きく掲載されておりました。医師を介せず、診断と投薬が行われたのです。
 これはすなわち、このような極限状態においては、医師法も超越されると理解いたしました

<中略>

 私は当時、裁判になるとは知りませんでしたし、一刻も早くタバコ煙を止めさせなければならないという危機感から、証明書を書いたのでした。
 しかし、日赤医療センターのコンピュータ画面では証明書という項目はどこを探しても無く、やむを得ず、診断書として発行しました。「と診断する」という文字は自動的に入ることになっていました。

 

(出典)作田学「甲81号証 被控訴人答弁書に対する所見」(2020年6月21日)(2021年4月19日閲覧)、2-3頁。下線は寺沢重法が加えた。

  発行したのは診断書ではないとう点は同じだが、こちらでは意見書ではなく証明書になっている。診断書として発行したのは、日赤のシステム上の問題だからという。甲66号の1でも見られた説明である。危機的状況に対する認識、コンプライアンス意識も見られるようになる。

  • 2021年4月22日 『週刊新潮』「「反たばこ」で診断書も偽造「禁煙学会」理事長が刑事告発された」(2021年4月22日号)、26-27頁

 刑事告訴に関する記事。

検察庁は適正に対処し、不起訴にするものと考えている。

 

(出典)「「反たばこ」で診断書も偽造「禁煙学会」理事長が刑事告発された」『週刊新潮』(2021年4月22日号)、26-27頁の27頁。

 不起訴が妥当であるとのコメントがなされている。