電子タバコと心筋梗塞に関する論文が撤回されたケース

  先日のGIGAZINEで喫煙と新型コロナに関する論文が撤回されたと報じられていた。著者の中にたばこ業界関連者がいることが論文刊行後に明らかになったためである。COI関連の撤回であり、研究内容そのものが疑われたわけではないようである。

 それでは、研究内容自体が理由で撤回されたケースはないのだろうか。約1年前に1つあった。電子タバコ使用が心筋梗塞に影響を与えることを示した論文である。

 論文撤回の情報を集めているRetraction Watchでも紹介されている。

retractionwatch.com 2021年4月30日閲覧

 以下、Retraction Watchをソースとして、このケースを私なりに整理する。

 まず、撤回されたのはJournal of the American Heart Association(JAHA)誌に掲載された以下の論文である。

  • Bhatta DN, Glantz SA. Electronic Cigarette Use and Myocardial Infarction Among Adults in the US Population Assessment of Tobacco and Health. J Am Heart Assoc. 2019;8:e012317. DOI: 10.1161/JAHA.119.012317.

 撤回の公知は2020年2月に出されている。

 著者のStanton Glantzh氏はカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者で、世界的に有名な禁煙推進派、禁煙学者である。

 撤回に至った大まか経緯は以下の通りである。

  • 2019年6月に論文刊行。Glantz氏がblog spotに、電子タバコ心筋梗塞の原因になるという更なるエビデンスが得られた、と投稿する。
  • Brad Rodu氏(ルイヴィル大学)が、心筋梗塞電子タバコのどちらが先に生じたのかを説明できていないとして、JAHAに撤回も要求。
  • USA Todayの2019年7月号でRadu氏の発言が報じられる。その後、JAHAと著者らとの間で、データの信憑性、訂正の公知、再分析などに関するやり取りが行われる。
  • 2020年2月にJAHAが撤回を公知。心筋梗塞の発生が電子タバコ使用の前なのか後なのかについて、編集者が追加分析を求めるも、著者らは信頼に足る再分析結果を提出できなかったこと主な理由だという。著者らによるデータへのアクセスに問題があったようである。

 なお、USA Todayの報道はネット上で閲覧可能である。Radu氏へのインタビュー、論文のどこがどう問題なのかが詳しく報じられている。

www.usatoday.com 2021年4月30日閲覧