台湾を中国研究の視点から分析することの重要性

 『日本台湾学会報』(第23号、2021年)に掲載されている、『中国・台湾・香港の現代宗教:政教関係と宗教政策』(櫻井義秀編著、明石書店、2020年)に対する藤野陽平氏の書評の中で、台湾を研究する上での重要な指摘がなされている。私が常々感じていることであり、深く賛同するところである。

 抜き書き。

[寺沢注:書評を行うことに関して]我ながら何にそれほど引っかかっていたのかというと、おそらくタイトルの「中国・台湾・香港」というこの3者の並び順であったのだろう。実際の本文では中国・香港・台湾の順に並んでいるので、些末な問題なのかもしれない。しかし近年北京政府から「中国台湾」の名称を各国の企業に求めるなど圧力が強まる中、台湾が中国と香港(やマカオ)の間に挟まれることに過敏になってしまっている台湾研究者は何も私だけではないであろう。

(藤野2021:266)(下線は寺沢)

日中社会学会の企画で「中国社会研究叢書」のシリーズの9冊目として刊行された本書を冒頭でも述べたように評者はあくまでも中国研究に位置付ける。中国でのフィールド調査が困難である時代の台湾の宗教研究は中国研究の一環、代替地として扱われてきた。それが、2000年代以降の台湾アイデンティティの高まりに呼応して、台湾は中国とは異なる台湾研究として取り組まれるようになったことはよく知られる。しかし当然、現在の台湾も強い中国の影響にさらされ続けている。台湾は台湾であるというアイデンティティが広がる時代に、中国研究の立場から台湾研究を扱うことの意義を本書は再確認を促してくる。中国を意識せずに暮らせない台湾のあり方を突きつける本書はたとえ中国研究であろうとも台湾研究のジャンルでも適切に評価されるべきである。

(藤野2021:271)(下線は寺沢)