『近代台湾女性史』(洪2001)

更新2021年7月3日 

   日本統治時代の台湾の女性史であり、纏足解放、女子教育、女性運動、「新女性」のライフスタイルなど、台湾の女性史に関する様々な社会現象が丹念に検討されている。書評に広瀬(2004)、何(2003)、上水流(2003)河原(2002)がある。女子教育を社会階層の視点から分析しているのがとても興味深い。

 たとえば、1920年代の新女性とその夫からなる核家族においては、新女性は家事労働をさほど担わなかったことが指摘される。台湾の高等女学校では、近代的知識を伝授するとともに良妻賢母的な教育(料理・礼儀作法・伝統芸能)などを伝授されていたのだが、結婚後の日常生活において、高等女学校で身に付けたこれらは技能はさほど生かされなかったようである。その理由としては、台湾では都市中間層・サラリーマン層が形成されず、家事労働に専従する主婦というものの必要性がなかったこと、家政婦を雇うのが一般的だったため妻が家事を行う必要が必ずしもなかったこと、などが指摘される。
そのほかにも、高等女学校卒という肩書きが、台湾女性の階層的ステータスになっており、その中で特に日本語や日本文化がハイカルチャーのシンボルになっていたといったことも示唆される。台湾の高等女学校文化がどういう階層的機能をもっていたのかについても、いろいろ興味をそそられる。
参考文献
※この記事は、北海道大学付属図書館主催企画「本は脳を育てる」に寄稿した紹介文を大幅に加筆修正して再掲したものです。