「台湾と香港における消費者金融サービス業の現状と特徴」(桑名・他2005)/「日本の消費者金融企業のアジア進出戦略の課題」(桑名・岸本2008)

2021年7月3日更新

ci.nii.ac.jp

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 日本の消費者金融企業のアジア進出戦略を検討するために、台湾、香港、タイにおける 消費者金融市場の比較分析を行った論文である(桑名・岸本(2008)は桑名・岸本・山本(2005) の後編である)。調査時期は2000 年代中頃であり、当時と現在とでは市場動向の少なからぬ部分が変わっている可能性があるが、有益な分析である。これらを読んで感じた点をメモすると以下のようになる。
 まず、各地域の個々の消費者金融市場の事例が非常に興味深い。たとえば、この三地域を比較すると、台湾は消費者金融市場の規制が相対的に強い社会であることが浮かび上がる。具体的には、台湾の消費者金融サービスは銀行のみ可能であるため、民間企業が参入できず、日本の企業が台湾の消費者金融サービスに参入する場合は、台湾現地の銀行との提携が不可欠になる。
 一方、香港ではローン市場が相対的に自由であり、台湾に進出する時のような障壁は必ずしも重要ではない。日本の消費者金融企業の現地展開のプロセスにも違いがある。台湾には1989年にプロミスが進出し、その後現地の銀行と合弁で事業を設立するものの、2005 年には台湾から撤退している(香港では存続)((桑名・岸本 2008、42-43 頁))。顧客の違いについては、タイでは教職員の需要が高い点が興味深い(桑名・岸 本 2008、46頁)。一口にアジア諸地域と言っても、消費者金融のあり方はかなり多様であることが感じられる。
 また、これらの地域の市場の違いを説明するための興味深い比較モデルが提示されている。まず、桑名・岸本・山本(2005)では、台湾と香港、日本における消費者金融市場の 志向性の違いを、「参入規制」と「消費者金融市場成熟度」の度合いのという 2つ軸を組み合わせて類型化している(50 頁、図表 2)。これを見ると、たとえば、台湾は参入規制が強く、かつ市場があまり成熟してない。一方の日本は、参入規制が弱く、市場が成熟している。当時の台湾と日本の消費者金融市場は真逆である可能性がうかがわれる。次に、桑名・ 岸本(2008)では、「企業の事業展開力」「市場の自由化度」「顧客の理解度」という 3 つの 軸を組み合わせたモデルを作成し、台湾と香港とタイを比較している(47-48 頁、図 1~5)。
 これらの説明を読むと、各地域の消費者金融のあり方を決める要因は相当に複雑である印象を受ける。台湾の消費者金融市場は、香港と同様に相対的に自由であるという先入観を抱いていたのだが、むしろ台湾は政府の規制が相対的に強い社会であるというのが意外である。いわゆる「華人社会」「華人文化」という共通項で、各地域のローンのあり方を説 明することも可能かもしれないが、むしろ各地域の政府の規制のあり方や金融制度の形成過程の方が、それぞれの消費者金融市場に強い影響を与えていると見ることもできそうである。消費者金融、さらに言えば、消費者金融も含むローン文化とでも形容すべき社会現象の特徴が浮かび上がるようにも感じる。