「喫煙者に対する否定的評価と差別」(山本・他2014)

更新2021年5月14日

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  • 山本雄大佐藤潤美・大渕憲一(2014)「喫煙者に対する否定的評価と差別」『心理学研究』85(2):121-129。

  喫煙者に対して否定的な言動をする人々の心理を分析した論文である。喫煙そのもの是非ではない。喫煙者に対する差別や偏見を問題視する論文であり、心理学等における差別や偏見の研究に位置づけられる。

 冒頭では、まず、差別には生得的属性に対するものとライフスタイルに対する差別の二つのタイプがあり、後者に対して人々は差別的にふるまいやすい傾向にあるという先行研究の議論が紹介される(p.121)。後者に関しては肥満に対する差別の研究は蓄積されているものの、喫煙者はあまり取り上げられていない。ゆえに、本論文は喫煙者に対する差別意識や偏見を検討するという(p.121-122)。 
 次いで、喫煙者を巡る議論と先行研究が整理される。その中には、喫煙者への排斥を肯定するような先行知見もあったという(p.122)(複雑な心境になる知見である)。そして、喫煙者に対する否定的な言動には、偏見や差別といった、合理的とはいえないような心理も含まれているのではないかと指摘し、これを明らかにするという(p.122)。 
 実証研究は二つ行われている。全体的な分析結果は、直接効果・間接効果を含め、喫煙者に対するネガティブな感情が確認され得るというものである。こうした結果を踏まえて、著者らは「喫煙者差別を生み出す心理過程が肥満者差別と同様のメカニズムで説明できることを明らかにし、さらに、喫煙者のパーソナリティに対する否定的ステレオタイプが差別的反応を喚起する心理過程の解明に寄与したものと考えられる」(p.128)と述べている。
 読んでみてかなり複雑な心境になる論文である。自由であるべきはずのライフスタイルに対して差別や排斥感情が滑り込んでくる過程を描いているからである。差別やステレオタイプ研究として理論的にも実践的にも喫緊の課題であることを感じさせる。