更新2021年5月31日
喫煙者やたばこに対して非喫煙者がどのような嫌悪感情抱くのかを分析したもの。対象者は大学生。先日、山本・他(2014)を読んだが、本論文はその延長として読んでみたもの。山本・他(2014)は、差別研究の流れを踏まえて、ライフスタイルに対する差別の問題を指摘し、喫煙者に対する否定的評価のなかには排斥感情などが含まれている可能性を明らかにしていた。
本論文は喫煙者とたばこに対する否定的な感情を測定する60項目に対して因子分析を行い、感情の具体的な構造を探索している。60項目は健康に関するもの、イメージに関するもの、マナーに関するものなど様々なものが設定されている。
印象的に感じたのは、因子分析の表を見る限り、嫌悪意識の少なからぬ部分が「喫煙者への負のイメージ」や「人的背景」などの、喫煙者に対する否定的評価によって構成されている点である(p.171)。因子分析には健康に関する意識関する意識群も用いられていたが、固有値や寄与率などの観点から見た場合には、うまく抽出されなかったようである。この結果をどのように解釈すればよいのかは難しいところであるが、喫煙者に対する評価は、健康上の理由に関するものよりも、むしろ「喫煙そのもの」に対する感情によって形成されていると推察できるかもしれない。山本・他(2014)の分析結果にも沿っていると思われる。
著者らが先行研究を調べたところ、喫煙者とたばこに対する嫌悪感情を分析したものはほとんど見当たらなかったという(pp.165-166)。山本・他(2014)では差別研究の観点からの喫煙者に対する排斥感を論じた先行研究が限られていることも指摘されており、この指摘とも共通する印象がある。ライフスタイルに対する排斥に対して少なからぬ懸念を抱く私としては、この問題についてもう少し研究が行われた方がよいと感じた。