性交渉に結婚や愛は必ずしも必要ではないという価値観、性の多様性─NHKの「日本人の意識」調査の結果を読んで

更新2021年3月30日
 NHKの「日本人の意識調査」の最新版報告書が刊行されている。
 日本で長期にわたって行われてきた社会調査の一つであり、調査時点ごとの価値観のあり方、価値観の変化を知ることのできる貴重なデータである(調査の詳細はこちら)。
 私が以前から気になって結果の一つに「性的なまじわりをもつのに、結婚とか愛とかは関係ない」(p.8)と考える人々の動向がある。この設問は婚前交渉の賛否を尋ねる一連の項目群の中に設けられているものである。他の項目は「結婚式がすむまでは、性的まじわりをすべきでない」「結婚の約束をした間柄なら、性的まじわりがあってもよい」「深く愛し合っている男女なら、性的まじわりがあってもよい」である。
 回答の集計結果をまとめた図6を見ると、1973年から2018年にかけて、婚前交渉に否定的な考えが減少している一方で、愛があれば性的なまじわりは可能であるという考え方が増えてきている様子が見受けられる。後者は19%から47%になっており、本文中でもこの点が主に考察されている(pp.8-10)。
 それでは、冒頭で取り上げた「性的なまじわりをもつのに、結婚とか愛とかは関係ない」という考え方はどうか。1973年から2018年にかけて約5%のままほとんど変化していない。性的なまじわりの可否を結婚や愛と関連させる考え方は、日本社会の変動に合わせていろいろと変化してきたが、結婚や愛と切り離した考え方は、いわゆる統計的マイノリティーで相当すると解釈することができると思われる。
 このような考え方が具体的にどのようなもので、どのような人々によって抱かれているものなのかは、様々な角度から検討してみないとわからないだろう。現時点の私の印象でいえば、日本社会の「規範的」な家族観や性意識を疑わせるような価値観、ライフスタイルと何らかの形で関連している可能性があるのではないかと推察する。たとえば、何らかの事情によって結婚生活自体が困難になっている状況、婚外交渉に許容的な価値観や婚外交渉を行っている人々などである。通念的な家族観に疑問を投げかけるという点でいえば、事実婚LGBT、ポリアモリーなどとも関連することがあるかもしれない
 いずれにせよ、性的なまじわりと結婚や恋愛は関係ないという価値観、そしてこのような価値観をもつ人々こそ、日本における「性的マイノリティー」ということができるのではないだろうか。こうした性的マイノリティーに目を向けむけていかなければ、性の多様性は不十分なものになってしまうと考える。
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