道徳的逸脱者に対する態度、存在脅威管理理論(Rosenblatt et. al 1989)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

  • Rosenblatt A, Greenberg J, Solomon S, Pyszczynski T, Lyon D. Evidence for terror management theory: I. The effects of mortality salience on reactions to those who violate or uphold cultural values. J Pers Soc Psychol. 1989 Oct;57(4):681-90. doi: 10.1037//0022-3514.57.4.681. PMID: 2795438.

 脇本竜太郎氏の『存在脅威管理理論への誘い』の中の「規範順守・逸脱に関わる反応」で紹介されていた論文(脇本2012:49-52)。

 「存在脅威管理理論」(terror manegement theory)を立証した研究だが、実験の中に、売春に対する態度を扱ったものがある。そのため、セクシュアリティセックスワークに関する研究として読むことも可能と思われる。

 最近、性風俗産業に対する「道徳的批判」と捉えることのできる社会現象がいくつかあったた。たとえば、以下のニュースがある。

mainichi.jp  2021年6月2日閲覧

 そうした状況を鑑みて、ここにメモしておきたい。

 6つの実験が行われ、売春に関わるのは最初の2つである。1つ目の実験では売春に対する判事の態度を扱っている。死を想起させた実験群とそうでない統制群を比較すると、前者の方が売春に厳しい態度を示している。2つ目の実験では学生を対象とし、同様の結果が得られたという。

感想

  • 脇本(2012)では本論文の他に、外集団に対する排斥感情(脇本2012:39-41)や差別主義者に対する共感的態度(脇本2012:46-48)の研究が紹介されている。いずれにおいても存在脅威を想起させる実験群において排斥的結果が得られることが示唆されている。これらの知見を総合的に見て、売春という「道徳的逸脱者」に対しても外集団に対する差別や排斥が向けらえる危険性があるのではないかという危惧を抱いた。
  • 外集団に対する差別や排斥について様々な研究がなされその知見も知られるようになってきているだろう。だが、内集団における道徳に基づく差別や排斥については、それほどには大きく取り上げられいない印象がある。だが、この結果を見る限り、売春といった「内集団の中の道徳的逸脱者」に対する差別についてももっと取り上げられるべきではないかと思われる。

 参考文献

  • 脇本竜太郎(2012)『存在脅威管理理論への誘い─人は死の運命にいかに立ち向かうのか』サイエンス社