台湾におけるエスニシティと宗教性─寺沢(2015)より

 台湾におけるエスニシティと社会意識の関連について、個別具体的な社会意識との関連を見ていくことに意味があるだろう。ここでは宗教性に着目し、エスニシティと宗教性の間にいかなる関連が見られるのかを確認してみたい。

 過去に次の分析を行ったことがある。

 この中の一部を取り上げて紹介したい。まず、分析の概要をまとめた後に、エスニシティとの関連が相対的に強い宗教性を取り上げる。

(1)論文の要旨

  • 【課題】社会意識の1つである宗教性に着目しエスニシティとの関連を探索的に検証するする。計量社会学的研究である。
  • 【方法】2009年実施の「台湾社会変遷基本調査」(Taiwan Social Change Survey)宗教総合モジュールを使用する。約30個の宗教性に対して社会人口学的変数を統制しし独立変数とした重回帰分析を行う。
  • 【結果】因果信仰、宗教団体への信頼、至高神信仰、信仰熱心度、宗教のポジティブな効果、祖先崇拝について他の社会人口学的変数と比べてエスニシティの関連が相対的に強かった。他の宗教性はエスニシティ以外の社会人口学的変数の方が相対的な関連がより明確に見出された。
  • 【結論】台湾における宗教性とエスニシティを見る場合、どのような宗教性のバリエーションを視野に入れる必要がある。また、エスニシティ間の違いにも留意するのも重要である。

(2)エスニシティと宗教性の分析結果

  分析では、まず因子分析を用いて多数の宗教性関連変数を縮約し、約30個の宗教性変数を作成した(Terazawa 2015:60-92)。これらに対して年齢、性別、地域、学歴、職業、収入という6つの社会人口学的変数と統制変数とし、エスニシティを独立変数とする重回帰分析(OLS)を実行した。各変数の総体的な関連度を比較し(フルモデルから各変数を1つずつ除外した際の決定係数の減少量)、エスニシティが有意かつ最も強い関連を示す6個の変数を見出した。 因果信仰、宗教団体への信頼、至高神信仰、信仰熱心度、宗教のポジティブな効果 、祖先崇拝である(Terazawa 2015:47-48)。

 これら6個の変数に関する分析結果を整理し、一覧化してここで紹介する(表1と表2)。

表1 エスニシティと宗教性の重回帰分析(標準化偏回帰係数(β))
(2009年実施のTaiwan Social Change Survey)(下の表に続く)
  因果信仰 宗教団体への信頼 至高神信仰
年齢 0.120 *** 0.063 + 0.104 **
性別 (女性=1) 0.126 *** 0.078 ** 0.165 ***
地域 (北部=基準カテゴリー)            
中部 0.059 * 0.060 * 0.096 **
南部 0.032   0.005   0.050 +
東部 -0.083 ** -0.046   -0.002  
学歴 -0.055   0.035   -0.094 *
職業 (第5等=基準カテゴリー)            
第4等 0.087 * -0.029   -0.034  
第3等 0.087 * -0.036   -0.030  
第2等 0.146 *** -0.111 * -0.087 +
第1等 0.073 * -0.026   -0.098 **
非就労 0.101 + -0.092   -0.108 *
収入 0.027   0.033 + 0.046 +
エスニシティ
 (閩南系本省人=基準カテゴリー)
           
客家本省人 0.043 + 0.012   -0.033  
外省人 -0.090 *** 0.003   -0.074 **
原住民 0.073 ** 0.133 *** 0.077 **
R2 0.069 *** 0.032 *** 0.085 ***
Adj.R2 0.061   0.023   0.075  
N 1638   1566   1530  
(注+C9:I26)***p<0.001 **p<0.01 *p<0.05 +p<0.10
(出典)Terazawa(2015)のTable2~7(Terazawa 2015:49-55)をもとに寺沢重法が整理・作成。β,有意性を示す記号、R2、Adj.R2のみを抽出して一覧化し日本語訳した。データは2009年実施の「台湾社会変遷基本調査」宗教モジュール(傅仰止・杜素豪主編(2010)『台灣社會變遷基本調查計畫第五期第五次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年7月4日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs09.pdf)。 

  表1の続き。

表2(表1の続き) エスニシティと宗教性の重回帰分析(標準化偏回帰係数(β))
(2009年実施のTaiwan Social Change Survey)
  信仰熱心度 宗教のポジティブな効果 祖先崇拝
年齢 0.098 ** 0.147 *** -0.120 ***
性別 (女性=1) 0.132 *** 0.109 *** -0.057 *
地域 (北部=基準カテゴリー)            
中部 0.041   0.003   0.020  
南部 0.031   -0.019   0.017  
東部 -0.055 * -0.130 *** -0.070 *
学歴 -0.092 * 0.149 *** -0.304 ***
職業 (第5等=基準カテゴリー)            
第4等 0.013   0.029   0.037  
第3等 0.011   -0.024   0.048  
第2等 -0.040   -0.039   0.117 *
第1等 -0.012   -0.038   0.080 *
非就労 -0.095 + -0.081   0.121 *
収入 -0.003   0.074 ** -0.017  
エスニシティ
 (閩南系本省人=基準カテゴリー)
           
客家本省人 -0.003   -0.006   0.027  
外省人 -0.080 ** -0.001   -0.080 **
原住民 0.089 ** 0.098 *** 0.054 *
R2 0.068 *** 0.059 *** 0.106 ***
Adj.R2 0.059   0.050   0.098  
N 1639   1625   1645  
(注)***p<0.001 **p<0.01 *p<0.05 +p<0.10
(出典)Terazawa(2015)のTable2~7(Terazawa 2015:49-55)をもとに寺沢重法が整理・作成。β,有意性を示す記号、R2、Adj.R2のみを抽出して一覧化し日本語訳した。データは2009年実施の「台湾社会変遷基本調査」宗教モジュール(傅仰止・杜素豪主編(2010)『台灣社會變遷基本調查計畫第五期第五次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年7月4日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs09.pdf)。 

  総体的的な傾向としては、閩南系本省人を基準とすると、原住民がより宗教的である一方、外省人はより宗教的でない傾向が見受けらる。同じ本省人といっても閩南系と客家系の間では宗教性の違いはさほど明瞭ではないのかもしれない

 

参考文献