計量的地域研究(有田2006:13)

 韓国における教育と社会階層の関連を計量社会学的に論じた有田伸『韓国の教育と階層』(東京大学出版会、2006年)の中で「計量的地域研究」という概念が提起されている。

 様々な統計データを駆使した地域研究というのがおおよその意味である。

 「計量的地域研究」を論じた箇所を引用する。

より生産的で実りある「計量的地域研究」を行おうとする筆者の意図に基づくものである。分析対象に関して、「コンテキストを重視する研究者は質的分析をおこな」い、「自然科学により近い立場の研究者は、統計的手法を駆使して計量的比較研究を進める」(鹿又[2004:1-2])という傾向は確かに存在する。しかし計量分析と地域研究とは、根本的に決して相容れない存在というわけではなく、計量的手法を適切に使いさえすれば、「対象の文脈を重視した計量研究」は十分に可能であると考える。

 

(出典)有田伸(2006)『韓国の教育と社会階層─「学歴社会」への実証的アプローチ東京大学出版会:13。下線は寺沢重法が加えた。

 私の見解を補足すると、「何が対象地域の文脈なのか」「事例が埋め込まれている文脈とはそもそもどのようなものか」を把握する上でも計量分析は強さを発揮するのではないかと考える。海外のどこを対象地域とするかによると思われるが、日本に伝わる情報はメディアでの報道に依拠したものが少なくないように推察する。近年はブログやSNSで発信される情報も少なからぬ影響力をもっていよう。

 しかしながら、それらが対象地域全体のどの部分に光を当てたものなのかがわかりにくい印象がある。日本国内の事例であれば、どの部分を切り取ったものなのかを推察し、それを日本社会全体の中に位置づけて考えることはある程度可能かもしれない(もちろん一筋縄にはいかないだろう)。

 それに対して、海外の場合、そもそもその社会の全体像がわからないことがある。日本に伝わる情報には観察者の視点や関心も加わっている。そのため、事例を対象地域全体の中に位置づけて考えることが、格段と難しくなるのではないだろうか。大雑把にいえば、「質的調査における代表性の限界」の問題が発生している。

 この問題を解決する方法の1つが、まさに「計量的地域研究」ではないかと推察する。対象地域に関する代表性の高い社会調査があれば、その調査結果をいわば「鳥観図」として活用する。「鳥観図」を確認しながら個別事例の位置づけを確認し、個別事例をみながら「鳥観図」を解釈するわけである。

 「計量的地域研究」という言葉を知ったのはいくぶん前のことであるが、その意義は変わらないどころか、一層高まっているように感じる。

 私が観察している台湾については、以下の過去記事にまとめたことがある。

shterazawa.hatenablog.com 2021年10月26日閲覧

参考文献