「株主優待制度の実施動機」(野瀬2014)

更新2021年5月18日

ci.nii.ac.jp

  • 野瀬義明(2014)「株主優待制度の実施動機(伊代田光彦教授・津田直則教授・桂昭政教授・滝田和夫教授 退任記念号)」『桃山学院大学経済経営論集』55(3):153-168。
 本論文を読んでまず意外に思ったのは、株主優待制度に関する研究がこれまであまり行われてこなかったという指摘である。日本の株式投資に馴染み深いシステムであり、イギリスなどでも優待制度を実施する会社があることからすれば、株主優待に関する様々な研究がすでに行われていることだろうと予測していたのだが、意外な話である。
 本論文は株主優待制度を取り上げた先行研究のレビューにウェイトが置かれている。そもそもどのような会社が株主優待を実施しているのか、それらの会社は何を目的として株主優待を実施しているのか、株主優待が株価の動きに与える影響はどのようになっているのか、といった問いに関する先行研究の知見が丹念に整理されている。貴重な情報源である。
 効率的市場仮説などの「王道」の研究からすれば株主優待は「誤差」のようなものと受け止められてしまうのかもしれない。インデックス投資家の発言やインデックスブロガーなどの発言を見ても、株主優待制度に対してあまり肯定的ではないような内容がしばしば見受けられる。株主優待は再投資効率の悪いシステムにうつってしまうのかもしれない。
 しかしながら、正当の理論的潮流からは「周辺的」とされる社会現象であることは、その社会現象が「取るに足らない」ものであることを意味しない。投資理論とは別に、日本では株主優待を目的とした投資家が少なからず存在し、日本の株式投資市場における株主優待の存在は看過できない。株主優待が大きな文化になっている日本の株式市場の特性を詳しく理解することは非常に意義のあることと考えられる。マーケットマイクロストラクチャー研究と接続する形で株主優待制度の研究がおこなわれるとより興味深いのではないかと感じる。