「クレジットカードの利用に関する一考察」(松沢2006)

更新2021年5月31日

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  • 松沢洋子(2006)「クレジットカードの利用に関する一考察─JGSS-2005の分析から」『日本版General Social Surveys研究論文集』6:107-118。JGSSのサイト

  JGSS-2005というデータを用いて、どのようなクレジットカードを利用するのかを統計分析で検証したのがこの論文である。

 ちなみにJGSSというのは大阪商業大学を主な実施者として約18年間実施されてきた大規模全国調査である。日本の代表的社会調査の1つであり、この論文で取り上げるクレジットカードの利用のような興味深い設問がいろいろと組み込まれている。たとえば選択的夫婦別姓に対する賛否、宝くじを買うかどうか、エコ活動などである。回答者の基本属性に関する設問も多い。データは研究者、学部学生でも利用可能になっているから、各自で様々な分析を行うことができる。
 この論文が発表された当時は消費者金融やクレジットカード、闇金の使用による多重債務が大きな社会問題として取り上げられていた。多重債務者の研究に比べて実証研究が手薄な一般債務者の特徴を解明しようと言うのがこの論文の目的である(107頁)。
 この論文のユニークなところは、分析のパートにおいて、クレジットカードの使用状況を単にもっているかもっていないかという0か1で尋ねるのではなく、「1回払い」(111頁)「分割払い」(111頁)「リボ払い」(111頁)「キャッシング」(111頁)というように使用状況を頻度で細かく設定していることである。「リボ払い、キャッシングとなると、クレジットを使用する本人の認識に関わらず、その金利の高さゆえに「借金」に近づいている。多重債務へのリスクも当然高まる。」(110頁)というわけである。クレジットの利用方法の選択肢を細かく見ることで多重債務的である人々を推察する工夫といえよう。
 知見について、まず興味深く感じたのは、ギャンブル経験のある人と多重債務者、消費者金融経験者が似ているという知見である。具体的には、ギャンブル経験がある人は「分割払い利用型」「1回払い利用型」が少なく、これは多重債務者や消費者金融経験者と同様の傾向がある(115頁)という点である。
 次に興味深いのは借金への忌避感が少ない人々においては、クレジットカードを持っていない人が圧倒的に少なく、キャッシングやリボ払いなどの高金利のリスクの高い使用方法を使う傾向にあるという知見である(116頁)。
 この論文を読んで感じたのは、クレジットカードの二面性である。近年のクレジットカードは、借金と言うよりも、むしろ、クレジットカードでの購入により様々な割引やポイントが付くといった節約術のためのアイテムとして定着しつつある。クレサラ問題という言葉で社会問題化された時のようなクレジットイメージは薄らいでいるかもしれない。だが、人によっては借金と連動するアイテムにもなりうる可能性もある。クレジットカード使用というテーマについて、データの実証分析から丹念に取むこの論文は貴重である。