「消費者金融のステレオタイプ」(酒井2014)

更新2021年5月18日

ci.nii.ac.jp

  消費者金融はネガティブなイメージをもたれる傾向にあるが、それでは、人々は焼死者金融に対して実際にどのようなネガティブイメージを持っているのかを分析したのがこの論文である。
 データは大学生を対象とした2つの調査から構成されており、消費者金融、カードローンに属する会社名(実験2では大手銀行も追加)を被験者に提示して、それらに対する印象(「親近感」や「怖さ」など)の回答をまとめている(136-143頁)。
 分析結果全体を俯瞰してみると、確かに、消費者金融に対するネガティブイメージが最も強く、その次がカードローンは中程度のネガティブイメージ、そして銀行のネガティブイメージが最も低い、という傾向が見受けられる。
 ここで留意しなければならないのは、これら三つのネガティブイメージは単純に強弱だけで比較できるわけではないことも示されていることである。たとえば、図1と図2を見てみると、消費者金融は信頼感が低い結果になっているもものの、一方で親近感という点ではポジティブイメージを持たれている結果も示されている(140-141頁)。この論文で取り上げられる会社に対して人々は様々な評価軸をもっており、それらが総合的に組み合わさってイメージが形成されていると考えられる。複雑な評価プロセスこそが重要であると考えられる。
 データ1では架空の会社名を設定して、これに対するイメージも問う調査も行われている。これが非常に興味深い。具体的な内容を示すと、消費者金融に属する会社として調査で設定された「SMBCコンシューマーファイナンスプロミス」という名前の中の「SMBC」というアルファベット名を、「三井住友銀行」という漢字名に置き換えて、架空の「三井住友コンシューマーファイナンスプロミス」という名前を作成し、前者と後者の評価特典を比較するのである。そうすると、前者よりも後者の方が信頼感の特典が高い結果が示されている(140-141頁)。
 この論文が特に興味深く感じたのは、消費者金融のイメージを探求する際に、カードローンや銀行、さらには名前の一部を漢字に変えた実在しないものも組み合わせることによって、消費者金融に対するイメージを貸付業全体に対するイメージの中に位置づけている点である。私見では、借入に関して昨今生じている様々な社会問題の背景には、借入という「仕掛け上は良く似た」事業に、イメージの異なる様々な事業体が参集し、サービスを利用する人々も、そのサービスの「仕掛けそのもの」よりも、むしろサービスを提供する事業体のイメージを頼りにサービスを受けるという構造があると推察している。
 たとえばカードローンからの負債を抱える問題について言えば、銀行からの借り入れであるということによって、それが借金であるという認識をもちにくいまま借り入れていくという仕組みが推察される。消費者金融から借り入れるのには抵抗があるけれども、銀行で借り入れるのなら良い、という認知パターンである。いわゆる「奨学金問題」についても、それが公共性の高い教育支援事業であるというイメージを持ちつつも、仕組みが「貸与」ということを認識しにくいという構造が背景の1つとして考えらえる。さらに推察を広げるならば、日本の標準的なライフコースに付随する出費として認識されるケースが多いと推察される行動、たとえば住宅ローンやマイカーローンについても、同じようなパターンが関連するのかもしれない。
 この論文で主に関心が向けられているのは消費者金融である。この論文の知見を踏まえて、広く日本におけるクレジットビジネスに対するイメージ構造の探求が進むと面白いように感じる。