『「意識」とは何だろうか』(下條1999)

更新2021年5月30日 

   本書のメインとなる主張を私なりに一言で要約してしまうと、「人は、自らの意識によって主体的に行動していると実感するが、必ずしも主体的に行っているわけではない。意識して行っていると思った行動が実は無意識のうちに始まっていたり、いろいろな錯誤や認知エラーが含まれていたりすることがしばしばである」といったとこになる。

 社会通念上は「意識」と見なされているような心理過程が、実は無意識の中で発生しているものである、主体的な判断といったものの中にも錯誤が多く含まれていることなどが、生理学的・脳科学的実験の知見を踏まえながら説明されている。
 第5章「人間観と倫理」では、前章までの実験結果を踏まえて、社会観・倫理観・人間観に対する問い直しが行われる。向精神薬ブロザックをめぐる論争を中心に、倫理の基準は妥当なのか、何かしかの外的なものに頼ることは良くないことなのか、といった議論が展開され、興味深い。
 「主体性」「自由意思」「自分の考えで」といった実感・常識を認知科学の立場から問い直す書籍である。
※この記事は、北海道大学付属図書館主催企画「本は脳を育てる」に寄稿した紹介文を大幅に加筆修正して再掲したものです。