更新2021年5月12日
本書は統計ソフトRを使いながら、会計学を習得するためのテキストである。私見の範囲において、Rのテキストの多くは狭義の統計分析を対象としたものである。「RjpWiki」の「R本リスト」においても直接的に会計を題材としたものは本書以外に見当たらないように見える(2020年6月5日時点)。会計学を対象としたRのテキストという点でまずもって興味を覚えた。
本書がカバーする会計学の範囲を見てみると、まず、貸借対照表と損益計算書の構造を学んだ上で(第2章)、収益性(第3章)と安全性(第4章)を順に学べる構成になっている。もう少し具体的な用語でいくつか見てみると、たとえば、「ROA」及び「ROE」(pp.106-130)、そして「インタレスト・カバレッジ・レシオ」(pp.151-153)といった会計学領域以外でも幅広く馴染みのある指標が取り上げられている。
各項目の解説は、まず著者の説明を読み、その上でRを実行しながら計算をしてみるという流れである。Rという点に関しては、本書ではRStudioを使用する。その詳解は第1章でなされている(もちろんRStudioを使用しなくとも実行可能である)。解説は丁寧かつわかりやすく、痒い所に手が届く感がある。
敢えて気づいた点を述べるとするならば以下の二点だろうか。まず、説明はわかりやすいが、会計学の全くの初心者が、本書を第一冊目として会計学を学び始めるとなると、それでも若干骨が折れるかもしれない。事前に何らかの形で簿記や会計学の前提知識を習得していた方が、本書の面白さをより一層感じ取るに違いない。著者は会計の学び方のアドバイスを行っている(真鍋2012)。参考になろう。社会学の観点から会計を論じた近年のものとしては、堀口(2018)を挙げられようか。
また、実際の会計学の実証研究例を取り上げ、かつ可能であればそれを再現しながら練習できるような箇所を設けてもよいかもしれない。本書でも実際のデータを使った練習ができるが、やはり実際の研究と格闘することによってより一層会計学の魅力が伝わるようにも思われる(1)。
注
- (1)社会調査における同様のコンセプトのものに川端編(2010)が挙げられる。
参考文献
- 川端亮編(2010)『データアーカイブSRDQで学ぶ社会調査の計量分析』ミネルヴァ書房。
- 堀口真司(2018)『会計社会学─近代会計のパースペクティブ』中央経済社。
- 真鍋明裕(2012)「会計学の学び方」『国際経営教育』(5):59-66。
参考サイト
- 「R本リスト」『RjpWiki』(http://www.okadajp.org/RWiki/?R%E6%9C%AC%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88 2020年6月5日閲覧)。