『グローバル化する厳罰化とポピュリズム』(日本犯罪社会学会編2009)

更新2021年5月12日 

グローバル化する厳罰化とポピュリズム

グローバル化する厳罰化とポピュリズム

 

 2009年に日本犯罪社会学会の編著として刊行された論集が本書『グローバル化する厳罰化とポピュリズム』(浜井浩一編)である。本論集の原型は、2008年刊行の『犯罪社会学研究』第33巻で組まれた特集「Globalized Penal Polulism and its Countermeasures」である。

 浜井浩一(2008)上述号の中で、Pratt(2007)のPenal Populism研究を踏まえながら、Penal Populismを以下のように説明する。

つまり、Penal Populismとは、「法と秩序」の強化を求める市民グループ、犯罪被害者の権利を主張する活動家やメディアが一般市民の代弁者となり、政府の刑事政策に強い影響力を持つようになる一方で、司法官僚や刑事司法研究者の意見が尊重されなくなる現象でもある。

 

(出典)浜井(2008:4)

  この引用文を読んだ読者は厳罰化ポピュリズムに関連し得る社会的議題をイメージすることができるのではなかろうか(本ブログでは浜(2008)の「厳罰化ポピュリズム」という訳語を使用する)。

 本論集が刊行された2009年以降では、たとえば、飲酒運転やながら運転、おおり運転など交通に関する様々な制度の罰則が強化されてきた。本論集刊行以前には飲酒運転が厳罰化されている。児童ポルノ禁止法はいわばポルノに対する厳罰化の一種とみなすこともできる。改正健康増進法、コロナの罰則なども関連してこようか。少年犯罪の厳罰化に関する議論も盛んである。事件が起これば、ネット上では「処分が軽すぎる」「即クビにできるようにしろ」「日本は罰則がゆるい」「損害賠償を請求すべきだ」といった言説が散見される。職場であれネットであれ、何らかの形で「厳罰化の気流」を感じてきた人は少なくなかろう。
 本論集は厳罰化ポピュリズムはグローバル的な現象であることに着目し、各地域の専門家による論考を掲載している。アメリカ(第1章)、ニュージーランド(第2章)をはじめ、国際比較研究(第3章、第5章)も収録されている
 読み応えのある論集であり、刊行から約10年経った今日においても色あせていない。むしろその意義は高まりつつあり必読書であるように感じる。上述した『犯罪社会学研究』第33巻はJ-STAGEでもフリーアクセス可能なので、まずはJ-STAGEのものからでも読んでみることを推奨する。
参考文献