『現代に日本における都市メカニズム』(赤枝2015)

更新2021年5月12日 

  都市社会学の諸理論をサンプリングデータの計量分析で検証した実証的論考である。私が感じた本書の意義を挙げる。

 まず第1部で都市社会学に関連する諸理論が豊富かつ手際よく整理されていることである。テンニースやデュルケムなどの社会学の古典から始まり、シカゴ学派の成果、そして大谷信介による今日の日本における重要研究などにいたるまで、都市社会学、特にその理論的展開を一望することができる。これだけでも本書の功績は大きい。私もとても勉強になった。都市社会学に触れてみたい時にはまず本書の第1部を通読してみることを推奨する。
 第二に、理論─仮説─検証というステップが鋭くかつ明晰に行われている。第1部で提示された諸仮説について、第2部の各章で一つずつ作業化し丹念に検証していく。そして、どの仮説をどう指標化したのか、仮説はどのように検証されたのかわかりやすく整理されている。分析にはマルチレベル分析が駆使されており、マルチレベル分析がもつ様々な応用可能性を知ることができる。逆に本書の分析を読むことでマルチレベル分析に興味を抱くという水脈もあり得よう。
 第三に、本書はアメリカの都市社会学理論の日本における妥当性の検証を一義的な目的とした論考である。私が読んだ印象としては、それと同時に、計量社会学的を駆使した地域研究、国際比較研究の成功例でもある。
 本書は都市社会学理論の生成過程をアメリカ社会の社会状況の前提に立ち返って再考し、日本の社会状況との異同に思考をめぐらす(序章)。分析の結果、日本に特徴的なものと特徴的ではないもの、日米両方に共通するものなどが明らかになる(終章)。日本研究やアメリカ研究として本書を読むこともできる。地域研究のあり方を考える上でも意義深い研究に違いない。
 本書では理論と方法論に関する徹底した議論が展開される。極めて硬派な研究書である。分析ごとに固唾をのませ、一気に読ませる魅力がある。