更新2021年5月31日
- 五十嵐彰(2018)「誰が「不倫」をするのか」『家族社会学研究』30(2):185-196。
日本においてどのような人々が不倫をしているのかを計量的に分析した論文である。台湾では、2020年5月末に、姦通罪が廃止され、様々な報道がなされていた(下記の参考サイトを参照)。一方の日本でも、つい先日から、芸能人の不倫を巡って白熱した議論が行われている(今、これを書いている時点でもである)。
世論という面でも地域研究という面でも不倫は重要なテーマであると思われ、本論文は非常に興味深く感じた。
読んでみた感想であるが、まず、アメリカと比べた場合、日本では不倫を実証的に論じた研究はかなり限られていること指摘されている(p.186)。その点においても、本論文は既に貴重であると考える。不倫に関する海外の研究が詳しくレビューされており勉強になる。
より詳しく知ってみたいと思ったのは、そもそもなぜ日本では不倫に関する研究があまりなされてこなかったのかという点である。日本では社会科学的な興味をあまり誘わなかったトピックだったという可能性もあるが、興味を誘ったとしても、センシティブなトピックゆえに扱いにくかったということも考えられる。そうであるならば、研究が蓄積されてこなかったということ自体が、優れて社会的・文化的現象であるとも考えられようか。
主要な分析結果として、夫婦関係と不倫の間には明瞭な関係は見られず、むしろ学歴や収入などの社会経済的状況が要になるといったことが提示される。配偶者との関係や家庭生活などが不倫の理由になる、ということでは必ずしもない可能性を意味しようか。
また、男性に限っていえば、配偶者の方が自分より収入が高いと認識している人は不倫をする傾向にあることも指摘されている。この結果について本論文は、男らしさが失われたと感じているかどうかがポイントになると解釈している(p.193)。これは興味深い指摘であり、ジェンダー・セクシュアリティを巡る議論に接続されそうである。男女ともに共通してみられるのは教育効果であることも明らかになっている。
全体的な印象として、女性より男性の方が不倫の規定要因がより複雑そうに見える。ここでいう複雑というのは、不倫を説明できる要因は広範囲かつ多数あり、どの要因からの説明も可能であるという状況である。その解明のためにも、不倫に関する研究はより一層重要であると思われる。
参考サイト
- 「姦通罪は「違憲」 大法官会議が判断/台湾」(『フォーカス台湾』2020年5月29日)hhttp://japan.cna.com.tw/news/asoc/202005290010.aspx (2020年6月11日閲覧)
- 〔のぞき見〕姦通罪の服役者が釈放」 (『NNA ASIAアジア経済ニュース』(2020年6月2日)https://www.nna.jp/news/show/2050694 (2020年6月11日閲覧)