「日本アニメ視聴者の国際比較分析」(孫2010)

更新2021年5月31日

ci.nii.ac.jp

  • 孫郁雯(2010)「日本アニメ視聴者の国際比較分析─JGSS-2008とTSCS-2008のデータを用いて」『日本版総合的社会調査共同研究拠点研究論文集』10:173-182。 JGSSのサイトにもありhttp://jgss.daishodai.ac.jp/research/res_top.html
 日本のアニメの視聴者は台湾と日本でどのように異なるのかを分析した論文。日本のポップカルチャーに関する研究というと、アニメの内容やファンへのインタビューなどを連想しやすいかもしれないが、これは計量的分析である。日韓台中の国際比較のために実施されたEASS-2008というデータの中の日本データと台湾データを使用している。
 本論文はかなり前にものを教えていた時にいろいろと取り上げたことがある。まず、台湾に関連するの授業等で台湾のポップカルチャーについて若干紹介していたのだが、日本との比較かつ統計的分析を使用した研究として本論文が貴重だったからである。もう一つは計量社会学の実習にあたって、研究例としてである。本論文はクロス表分析からロジスティック回帰分析に至るというスタンダードなスタイルになっており、かつ少しでも海外の研究に触れてもらおうと思ったためである。
 さて本論文の概略であるが、視聴者層に関するカテゴリーをいくつか設定している。例えば、「インドア派」「良き親」「マニアック派」などである(pp.176-177)。
 全体的な結果は以下の通り結果である(pp.180-181)。まず、日本のアニメ視聴者は台湾と日本で異なる。例えば、台湾では女性や大卒者が、子供の有無に関わらず日本のアニメを見るのに対して、日本では子供のいる人が見る傾向にある。一方、女性の方が日本のアニメを見る傾向にあるという点では共通しているという。
 こうしてみると同じく日本のアニメを視聴するといっても台湾と日本では、その意味合いや社会的位置づけが若干異なる可能性が示唆される。一見すると同じようなポップカルチャーを志向しているように見えても、別のものを志向していると考えることもできるのかもしれない。もちろんアニメの内容により、刊行から10年の間で、アニメを含む日本のポップカルチャーを取り巻く状況はそれなりに変わっている可能性はあるが、国際比較研究への興味を高める分析であることに変わりはない。