東アジアにおける青少年の心理的ウェルビーイング(Yi eds. 2013)

更新2021年7月3日
  • Yi, Chin-Chun eds. (2013) The The Psychological Well-being of East Asian Youth, Springer.
 台湾で実施されているTaiwan Youth Project(TYP)というパネル調査データの分析である(パネルデータ分析は筒井・他編(2016)を参照)。TPYは青少年を対象としたデータであり、本書では青少年の心理的ウェルビーイングがどのような社会・文化的文脈に埋め込まれているのかが様々な角度から分析されている。

www.typ.sinica.edu.tw  2021年5月31日閲覧

 まず、家族と学校が青少年の心理的ウェルビーイングをどのように規定しているのかが分析され(PartⅠとPartⅡ)、次いで議論は就労等への移行過程に進む(PartⅢ)。同時に中国大陸や韓国の青少年との比較分析もなされている(PartⅣ)。各パートに3~5の論考が割り当てられており、ボリュームのある論集になっている。Chapter2では詳述されるGuangは華人社会の社会関係としてしばしば重要視されるものであり 本書全体での重要なキーワードの一つになっている。Guangの指標化の方法を把握するという意味でもChapterⅡに目を通すことは不可欠である。
 台湾の社会状況として目に留まったのは、ひとり親世帯(Chapter3)、塾(補習班と呼ばれるものが含まれる)(Capter7)である。近年の香港における学生運動に関心があるならば、1980年代以降に香港で生まれた人々の政治意識を扱ったChapter15が興味深いかもしれない。私は性行動や性意識に関心があるため、青少年の婚前交渉を取り上げたPart10が関心に沿うものである。日本における婚前交渉への理解を深めていく上でも貴重な分析である。
 分析にはパネルデータに対応した方法が駆使されている。TYPのサイトには、TYPを使用した分析など、関連資料が豊富に蓄積されており参考になる。パネルデータ分析に関心のある人にとっても本書は興味深く映るに違いない。
参考文献