デュルケム、自殺、宗教(Pescosolido and Georgianna 1989)

更新2021年5月31日
  • Pescosolido BA, Georgianna S. Durkheim, suicide, and religion: toward a network theory of suicide. Am Sociol Rev. 1989;54(1):33-48. PMID: 11616426.

 『自殺論』においてデュルケムが宗教と自殺の関係を論じたこと広く知られている。ごく簡単にまとめるとカトリックプロテスタントの自殺率違いは、両者の信仰そのものというよりも社会的要因(統合)の違いによるのではないか、という主張である。いくらかでも社会学に触れた人であればまず間違いなく耳にしている。

 それでは、デュルケム以降の宗教と自殺の研究について、日本ではどれだけ知られているのか。本当に信仰そのものはあまり重要ではないのか。統合、社会的要因とは具体的に何を指しているのか。Annual Review of Sociologyでも自殺に関する社会学的研究のレビュー論文が刊行されたことがある(Wray et al. 2011)。これによると近年のアメリカにおける方法論の進展に伴って自殺研究もより高度になりつつある。
 著者らが1989年に本論文は、宗教と自殺の研究の重要な転換点となったものである。ここでは、デュルケムの知見は刊行当時の時代・社会状況に埋め込まれたものであり、今日の議論を進めていく場合は、モデルを改善しなければならないことが指摘されている。そして宗教団体や教派のネットワークの違いに着目し、自殺をネットワークの観点から論ずべしと主張している。自殺に対するネットワークの効果は、今日の自殺研究においても最も重要なトピックの一つになっている。
 宗教と自殺はその後も多くの研究が行われているようである。一つの方向性はマルチレベル分析を用いた研究である。デュルケムは、個々の人々が教派や地域などに包含されている状況を指摘していた。これはマルチレベルモデルとの相性がよい議論であり、ネットワークの効果を含む様々な理論の妥当性が検討されている(Stack and Kposowa 2011)。もう一つの方向性はキリスト教以外研究、さらには国際比較研究である。例えば、Jung and Olson(2014)は韓国を、Stack and Kposowa (2011)は国際比較を通じて、宗教が自殺の容認とに対してどのように関連するのかを論じている。もちろんこれら以外の論点もある。
参考文献
  • Jung, Jong Hyun and Daniel V. A. Olson (2014) "Religion,Stress,and Suicide Acceptability in South Korea," Social Forces 92 (3): 1039-1059.
  • Stack, Steven and Augustine J. Kposowa (2011) "Religion and Suicide Acceptability: A Cross-National Analysis," Journal for the Scientific Study of Religion 50 (2): 289-306.
  • Wray, Matt,  Cynthia Colen and Bernice Pescosolido (2011) "The Sociology of Suicide," Annual Review of Sociology 37: 505-528.