青少年とポルノに関するレビュー論文(20年分) (Peter and Valkenburg 2016)

更新2021年5月30日

  • Jochen Peter & Patti M. Valkenburg (2016) Adolescents and Pornography: A Review of 20 Years of Research, The Journal of Sex Research, 53:4-5, 509-531, DOI: 10.1080/00224499.2016.1143441

  青少年とポルノの関係を論じた研究のレビュー論文。主な目的は、どのような青少年がポルノを視聴しているのか、ポルノを視聴することとジェンダー観などの価値観の間にどのような関連があるのかなどについて、これまでにどのような知見が見出されてきたのかを明らかにすることであるという。

 レビュー対象の抽出に当たっては、SSCIやPsycINFOの検索システムを用いて、量的研究と質的研究あわせて約70本の論文を選定している(pp.512-513)。
 参考文献リストを見ると、おおむねセクシュアリティ研究、青少年研究、コミュニケーション研究に関連する社会学、心理学関連の論文が扱われている。たとえば、Archives of Sexual BehaviorJournal of Sex Research, Sexuality and CultureJournal of Research on AdolescenceCommunication ResearchSocial Behavior and Personalityなどの雑誌が記載されている。インターネット上のポルノに関する研究も収録されている。
 本論文には DSMM(Differential Susceptibility to Media Effects Model)という言葉が出てくる。これは青少年少年の発達段階、社会的要因などの複合的な視点から青少年とポルノの関連を見るものであるという(pp.511-512)。青少年とポルノの関連を展望するための理論的な視座として、レビューの知見もこのモデルに沿いながら整理されている。なお、DSMMは本論文の著者らが提唱したものである(Valkenburg and Peter2013)。
 レビュー結果は、まずポルノを視聴する青少年の特徴から始まり、次いでポルノ視聴の規定要因、そしてポルノ視聴と性意識・性行動の関係という順に進んでいく。
 最後の性意識・性行動の内訳を少し詳しく見てみる。
 まず、価値観として性的なものに対して寛容であるかどうか、ステレオタイプジェンダー観を抱いているかどうか、自身の性的発達などをどのようなものだと考えているのかなどが取り上げられている(pp.520-521)。次に性行動については、性交頻度や性交スタイル、性交初体験の時期などを取り上げられている(pp.521-524)。このような項目がこれまでの研究で論じられてきたことがうかがわれる。
 本論文では、要所要所で、それまでのレビュー結果が要約されており、全体を俯瞰しやすい作りになっている。レビュー対象とその分析結果の詳細は本論文のサイトでSupplemental material、Appendixとして公開されている(p.510)。興味深い論文が網羅されており、ポルノに関する社会科学的研究を知る上での重要な参照点になると推察する。
 先行研究の限界一つとして、先行研究の多くがポルノのネガティブな側面に着目されてきた傾向が指摘し、今後はポジティブな側面に着目した研究も進めていくことの重要性を主張している(pp.527-528)。これは私も同感である。私見の限り、英語圏で発表された社会科学系のポルノ研究は、ポルノは望ましくないものであるという価値観を前提としたものも少なくない印象がある。
 この点とも関連すると思われるが、先行研究の多くは欧米諸地域を対象としたものに偏っていることを指摘している(pp.527-528)。アジア諸地域などを対象とした研究については今後の研究に期待するというところだろう。
 本論文を大きな手掛かりとしつつ、引き続き勉強していくことにしよう。
参考文献
  • Valkenburg, Patti M. and Jochan Peter (2013) "The Differential Susceptibility to Media Effects Model," Journal of Communication 63(2): 221–243.