『現代エスノグラフィー』(藤田・北村編2013)

 エスノグラフィーに関する先端的議論を収録したもの。刊行は約8年前だが、今も斬新といえる内容である。書評には岡原(2014)、山口(2014)がある。

 私が特に関心を抱いた章は2つある。1つは「オーディエンス・エスノグラフィー─メディアの利用を観察する」である(オーディエンス・エスノグラフィーは藤田(2018)が詳しい)。メディアを駆使したフィールドワークが論じられているが、本書刊行以降、You TubeやTik Tokなどの動画サイトはより一層進んでいると推察する(関連記事)。狭義の研究者ではない人々が、自らエスノグラフィーを行っているととらえることもできよう。こうしたネット状況をどうみていくかという意味でも、この章の議論は貴重である。

 もう1つは「チーム・エスノグラフィー─他者とともに調査することで自らを知る」である。チーム・エスノグラフィーをごく簡単にいえば、立場の異なる人々が共同でフィールドワークを行うことである(研究例として徳永・井本(2017)がある)。立場性が相対的に強く影響する調査の場合、1人で調査を行うことが難しくなるケースが考えられる。たとえば、セクシュアリティに関するフィールドワークの場合、男性か女性のどちらかが単独で調査をすることは、場合によっては難しいかもしれない。このような場合は、チーム・エスノグラフィーは有効な方法の1つと考えられる(寺沢2020:172)。

 ただ、共同で調査を進めるとなると、調査者同士の関係性に歪みが生じてくる懸念もある。たとえば、関係性の悪化に伴って、調査自体が順調に進まなくなったり、調査結果の発表段階で揉め事が生じたりするケースである。共同研究のマネジメントもチーム・エスノグラフィーの大きな議題の1つだと考える。 

参考文献

  • 藤田結子(2018)「グローバリゼーションをいかに記述するのか─ニュース制作とオーディエンスのエスノグラフィーを中心に」『マス・コミュニケーション研究』93:5-16
  • 岡原 正幸 (2014)「書評:「パフォーマティブ・シンドローム」の中の調査実践とは : 藤田結子・北村文編『現代エスノグラフィー : 新しいフィールドワークの理論と実践』新曜社、2013年」『三田社会学』19:123-126。
  • 寺沢重法(2020)「書評 日本のアダルトビデオ、台湾へ―Heung-wah Wong and Hoi-yan Yau著『Japanese Adult Videos in Taiwan』」『饕餮』28:166-175。
  • 徳永智子・井本由紀(2017)「多文化クラスにおけるチーム・エスノグラフィーの教育実践」『異文化間教育』46:47-62。
  • 山口洋典(2014)「現代エスノグラフィー─新しいフィールドワークの理論と実践、藤田結子・北村文編著、新曜社、2013年」『ボランティア学研究』 14:101-102。