パーソナリティ特性と同性婚に対する個人の態度:台湾の分析結果

  • Wang, CH., Lin, Tj., Weng, D.LC. et al. Personality Traits and Individual Attitudes Toward Same-Sex Marriage: Evidence from Taiwan. Sex Res Soc Policy 17, 524–540 (2020). https://doi.org/10.1007/s13178-019-00401-4

 備忘録。台湾の人々の同性婚への支持・不支持に対してパーソナリティ特性が与える影響を分析した論文。以下、アブストラクトの試訳。

台湾では、近年、同性婚が特に注目される問題になりつつあるものの、同性婚に対する個人の態度の規定要因の検証には、学術的関心がほとんど向けられていない。本研究では、台湾においてパーソナリティが個人の同性婚への支持にどのような影響を与えているのかの解明を目指す。台湾で2017年7月に収集したオリジナルデータを使用した結果、協調性が高い人ほど同性婚に反対する傾向にあることが明らかになった。さらに、同性婚への個人の態度に対する、勤勉性と経験への開放性の影響は、年齢で異なっていた。具体的には、若い人では勤勉性の高さは同性婚への支持と正の関連があるが、年配の人では同性婚への支持と負の関連があった。同様に、若い人では経験への開放性の高さは同性婚への支持の増加に結び付く傾向にあるが、年配の人では同性婚へ支持の減少に結び付く傾向があった。総じて、本稿の結果は、パーソナリティが同性愛の権利への個人的態度に対して、ある程度の説明力を有し得ることを示していた。

パーソナリティ・関心・党派性:台湾の大学生のひまわり学生運動参加の要因の分析

 ひまわり学生運動参加者のパーソナリティを分析した論文(オープンアクセス)。ビッグファイブの直接効果・間接効果が検証されている(pp.85-87)。社会科学系学生の参加の多さが特徴的であるとなると、ひまわり学生運動に対する学生の間での意識の違いも重要になるだろう。附録には使用した変数が詳しくまとめられており、参考になる。以下はアブストラクトの試訳。

大学生の政治参加に影響を与える要因は多々あるものの、パーソナリティという要因は長らく目を向けられてこなかった。近年、パーソナリティと政治参加の関連の研究は多くなりつつあり、我が国の大学生の政治活動参加も注目されていることから、大学生のパーソナリティが政治参加にどのような影響を与えているのかというテーマを探求することには大きな意義がある。本研究ではビッグファイブパーソナリティ理論に基づき、ひまわり学生運動後の調査データを使用して大学生のパーソナリティ、政治的関心、党派性がデモ活動への参加に与え得る影響を分析する。知見:パーソナリティ特性は党派性に影響しないが、個人の政治的関心は影響する。パーソナリティ特性は党派性や政治的関心との交互作用を統制すると、大学生のひまわり学生運動参加に直接影響しないが、開放性パーソナリティと協調性パーソナリティは学生のひまわり学生運動参加に間接的に影響する。開放性パーソナリティが高いほど、政治的関心が高くなるため、学生のひまわり学生運動参加に影響し、協調性パーソナリティが低いと、政治的関心が高くなるため、学生のひまわり学生運動参加に影響する。この他に、社会科学関連学科の学生もひまわり学生運動に参加する傾向があった。

台湾の大学生の政治的寛容性に対するパーソナリティ特性の影響

 台湾の大学生におけるパーソナリティ特性と政治的寛容性をパネルデータ*1を用いて分析した論文(オープンアクセス)。

 以下はアブストラクトの便宜的日本語訳(ビッグファイブパーソナリティはExtraversion・Agreeableness・Conscientiousness・Emotional stability・Open to experienceが使用されている。それぞれ外向性、協調性、誠実性、情緒安定性、経験開放性と訳した)。

本研究ではパーソナリティ特性と政治的寛容の関係を検討する。台湾の先行研究では心理的要因と政治的寛容性の関係が分析されていないため、本研究ではビッグファイブパーソナリティー外向性・協調性・誠実性・情緒安定性・経験開放性ーの大学生の政治的寛容性への影響を検討した。本研究では「我が国の大学生の政治的社会化に関する縦断研究」の第四年調査データを使用し、順序ロジットモデルで性格特性と政治的寛容性の関係を分析した。分析の結果、協調性と経験開放性の二つのパーソナリティ特性が大学生の政治的寛容性に有意な影響を与えていることが明らかになった。具体的には、協調性パーソナリティ特性が高い回答者ほど、政治的寛容性が低くかったが、経験開放性パーソナリティ特性が高い回答者ほど、政治的寛容性が高かった。また、誠実性と情緒安定性の二つのパーソナリティ特性にも、政治的寛容性に対する部分的影響力があった。一方で、外向性パーソナリティ特性と政治的寛容性は関連しないようであったものの、パーソナリティ特性の大学生の政治的寛容性に対する影響を性別で比較すると、外向性パーソナリティ特性が顕著に高い女子大学生ほど、政治的寛容性が低く、さらに、誠実性パーソナリティ特性が政治的寛容性に与える影響は女子大学生と男子大学生で異なっていた。結論として、本研究はパーソナリティ特性が大学生の政治的寛容性に影響を与える重要な説明変数であることを実証し、女性と男性でパーソナリティ特性が政治的寛容性に与える影響が異なるという予備的知見を提供した。このことは、政治的寛容関連研究の発展にとって重要な意義を有する。すなわち、個人の政治的寛容性の分析を進めるにあたっては、文脈的、態度的、行動的要因に加えて、パーソナリティ特性という心理的要因も考慮すべきなのである。

*1:「我國大學生政治社會化的定群追蹤研究」(我が国の大学生の政治社会化に関する縦断研究)。二次データとして公開されている(https://doi.org/10.6141/TW-SRDA-E10053_4-1

中国ファクターの台湾の選挙への影響:2008年から2014年の間に世代を超えてどう変化したのか?

  • Weng, D.L.-C., Chen, L.-H. and Wang, C.-H. (2022), "The effect of China factor on Taiwan's elections: how has it changed across generations from 2008 to 2014?", Asian Education and Development Studies, Vol. 11 No. 2, pp. 248-264. https://doi.org/10.1108/AEDS-02-2020-0041

 中国ファクターが有権者の投票選択に与えた影響をTEDSのデータで分析した論文。中国ファクターが投票選択に対して大きな影響を与えたという知見は、昨今の台湾選挙に関する話題からある程度予測し得るものだが、国民党支持者の中では選挙と世代によるばらつきがあるのは興味深い点の一つではないかと思われる。以下、アブストラクトの便宜的な訳。

目的

本研究の主目的は、中国ファクターが、二大政党に対する台湾の有権者の評価に対して、選挙や世代と交差して、どのような影響を与えるのかを明らかにすることである。1)台湾の高齢者は若年コーホートよりも中国ファクターを深刻に捉える可能性がある、2)選挙のレベルによって中国ファクターの重みづけが異なる可能性がある、と主張する。より重要な点として、中国ファクターは有権者の党派性と交絡していることを議論する。

デザイン/方法論/アプローチ

2008年から2014に実施された台湾の選挙と民主化に関する調査(TEDS)によって、二回の地方選挙と二回の総統選挙における台湾の人々の選挙選択に対して、中国ファクターが与える影響を分析することができる。上記のリサーチクエスチョンに答えるために、本研究ではイシュー投票理論と見かけ上無関係な回帰(SUR)モデルを用いた実証分析を行う。

知見

本研究の知見は、台湾選挙において、政治世代は中国に対する反応をどう変化させたかについての実証的根拠を提供している。最も基本的な変数である政党アイデンティティと中国イシュ―は、依然として極めて重要であり、無視できない。特に、中国ファクターは、民主進歩党(DPP)支持者の選挙選択に対して、世代問わず、極めて大きな役割を担っているのに対して、国民党(KMT)支持者の選挙選択に対しては、選挙の文脈と世代によって、与える影響が異なっている。

オリジナリティー/価値

単項目は選挙選択の効果的な予測因子として十分ではないという疑念もあると推察されるが、台湾選挙においては、特に党派性が絡む場合は、中国ファクターは最も重要な要素であることは明白である。本研究のSURアプローチによって、党派性と中国ファクターを分けて見ることができないことが確認された。