二二八事件・美麗島事件・中華民国建国・抗日戦争勝利をどこまで重要だと思うか(2013年)

 台湾における様々な歴史的事件に対して、台湾の人々はどの程度重要だと思っているのだろうか。台湾社会変遷基本調査の結果をメモする。

 2013年に実施された第六期第四次調査に設問が含まれている。

 二二八事件、美麗島事件中華民国建国、抗日戦争勝利という歴史的事件が列挙され4件法で尋ねている。

 結果は以下の表の通りである。

表 台湾における歴史的事件の重要度(2013年実施台湾社会変遷基本調査)
  二二八事件

美麗島事件

党外民主運動

中華民国建国

抗日戦争勝利
度数 % 度数 % 度数 % 度数 %
とても重要である 518 28.9% 336 19.3% 447 25.0% 564 31.3%
重要である 934 52.0% 764 43.9% 801 44.8% 924 51.3%
重要でない 302 16.8% 529 30.4% 434 24.3% 275 15.3%
全く重要でない 41 2.3% 111 6.4% 107 6.0% 39 2.2%
合計 1795 100.0% 1740 100.0% 1789 100.0% 1802 100.0%
(出典)傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年10月27日取得、https://www2.ios.sinica.edu.tw/sc/cht/datafile/tscs13.pdf)の「54. 請問您覺得下列這些歷史事件是不是很重要,要讓下一代永遠記得?(a)二二八事件(b)美麗島事件、黨外民主運動(c)推翻滿清,建立中華民國(d)八年對日抗戰勝利」、選択肢「非常重要」「重要」「不重要」「非常不重要」(pp,211-212)より寺沢重法作成。DK・NA回答は除外した。

 全体としてみると、いずれの事件についても、重要であると考えている人が多い様子が見受けられる。個別に見ると二二八事件と抗日戦争勝利は相対的に重要視され、美麗島事件中華民国建国はそうでもない印象である。

計量的地域研究(有田2006:13)

 韓国における教育と社会階層の関連を計量社会学的に論じた有田伸『韓国の教育と階層』(東京大学出版会、2006年)の中で「計量的地域研究」という概念が提起されている。

 様々な統計データを駆使した地域研究というのがおおよその意味である。

 「計量的地域研究」を論じた箇所を引用する。

より生産的で実りある「計量的地域研究」を行おうとする筆者の意図に基づくものである。分析対象に関して、「コンテキストを重視する研究者は質的分析をおこな」い、「自然科学により近い立場の研究者は、統計的手法を駆使して計量的比較研究を進める」(鹿又[2004:1-2])という傾向は確かに存在する。しかし計量分析と地域研究とは、根本的に決して相容れない存在というわけではなく、計量的手法を適切に使いさえすれば、「対象の文脈を重視した計量研究」は十分に可能であると考える。

 

(出典)有田伸(2006)『韓国の教育と社会階層─「学歴社会」への実証的アプローチ東京大学出版会:13。下線は寺沢重法が加えた。

 私の見解を補足すると、「何が対象地域の文脈なのか」「事例が埋め込まれている文脈とはそもそもどのようなものか」を把握する上でも計量分析は強さを発揮するのではないかと考える。海外のどこを対象地域とするかによると思われるが、日本に伝わる情報はメディアでの報道に依拠したものが少なくないように推察する。近年はブログやSNSで発信される情報も少なからぬ影響力をもっていよう。

 しかしながら、それらが対象地域全体のどの部分に光を当てたものなのかがわかりにくい印象がある。日本国内の事例であれば、どの部分を切り取ったものなのかを推察し、それを日本社会全体の中に位置づけて考えることはある程度可能かもしれない(もちろん一筋縄にはいかないだろう)。

 それに対して、海外の場合、そもそもその社会の全体像がわからないことがある。日本に伝わる情報には観察者の視点や関心も加わっている。そのため、事例を対象地域全体の中に位置づけて考えることが、格段と難しくなるのではないだろうか。大雑把にいえば、「質的調査における代表性の限界」の問題が発生している。

 この問題を解決する方法の1つが、まさに「計量的地域研究」ではないかと推察する。対象地域に関する代表性の高い社会調査があれば、その調査結果をいわば「鳥観図」として活用する。「鳥観図」を確認しながら個別事例の位置づけを確認し、個別事例をみながら「鳥観図」を解釈するわけである。

 「計量的地域研究」という言葉を知ったのはいくぶん前のことであるが、その意義は変わらないどころか、一層高まっているように感じる。

 私が観察している台湾については、以下の過去記事にまとめたことがある。

shterazawa.hatenablog.com 2021年10月26日閲覧

参考文献

【刊行】書評『図書新聞』(3517号、10月30日号)奥井智之(2021)『宗教社会学』東京大学出版会

 『図書新聞』(3517号、10月30日号)に書評を書きました。

toshoshimbun.jp 2021年10月22日閲覧

台湾における歴代総統の評価ランキング(2020年8月)

tw.news.yahoo.com 2021年10月17日閲覧

 台湾民意基金会が実施した調査の結果。2020年の李登輝総統死去後の2020年8月に実施されている。

 総体的に見ると、第1位の蒋経国と第2位の李登輝で競っているように見受けられる。ただ、李登輝の方が散らばりがやや大きい印象を受ける。

 蒋介石は最も評価が低いようにも見えるが、18.7%が「不知道」がある。「不知道」をどう解釈するかが難しいだろう。

蒋経国死去当時のニュース映像

 蒋経国死去当時のニュース映像。

 台湾における歴代総統の中で最も高い評価を得ているのは蒋経国であることが指摘されている(本田2004:200-205)。本ブログでも台湾社会変遷基本調査の結果から蒋経国の評価の高さを示唆してきた。

shterazawa.hatenablog.com 2021年10月13日

 蒋経国時代は台湾の民主化、自由化、経済発展が進展し、本土化への舵取り、戒厳令解除や探親の許可などが行われた。背景要因は複雑だと思われるが、こうした時代背景も蒋経国に対する評価の高さと関連することが推察される。

 今日の台湾の人々は蒋経国をどのように考えているのか。台湾全体の社会意識の中のどのような部分に位置づけられるのか。現代台湾社会を見る上で不可欠のテーマだと考える。そのためには、蒋経国とはどのような人物であり、蒋経国時代とはどのような時代だったのかをできるだけ具体的に整理していく作業が求められよう(蒋経国蒋経国時代は詳細は本田(2004:69-132)、沼崎(2014:75-91)、菅野(2019)、若林(1997)が詳しい)。

 本記事では蒋経国死去(1988年)を報じたニュースをメモしておく。蒋経国死去は当時の台湾において印象的な出来事の1つだったとされる。たとえば、当時、台湾に滞在していた沼崎は、その様子を以下のように述べており、ここから当時の様子をうかがい知ることができる。

 蔣經國が死去した日には、テレビ画面から色が消えて驚きました。最初はテレビが壊れたのかと思ったのですが、そうではなくて、全ての放送局がカラー放送から白黒放送に変えたのでした。普段は色彩豊かな新聞も、翌朝から白黒印刷になっていました。マスコミが一斉に「喪に服した」わけです。亡き相当を悼む歌が作られ、繰り返し放送されました。「親愛的蔣經國先生・・・」(チンアイディチングォシェンシェン 親愛なる經國さま)という出だしの歌詞とメロディを今でも覚えています。テレビは特別番組一色で、第二次世界大戦中の抗日映画が放送されたりもしました。社会全体に服喪を強要されている感じが、数日間続きました。忘れられない思い出です。

 

(出典)沼崎一郎(2014)『台湾社会の形成と変容─二元・二層構造から多元・多層構造へ』東北大学出版会:77-78。字体は引用元のままにした。

 これは華視の歴史上的今天で取り上げられた映像である。

youtu.be  2021年10月13日閲覧

 こちらは東森で報じられたものである。

youtu.be  2021年10月13日閲覧

 前半は蒋介石であり、蒋経国は0:30以降である。

参考文献