李登輝の台湾での評価(2003年、2013年)

 日本で最もよく知られている台湾の政治家の1人として李登輝を挙げることができよう。日本語世代であり、台湾の民主化に大きく貢献した政治家というイメージがあろう。90年代には司馬遼太郎を筆頭とする文化人との対談が行われ、日本国内には李登輝を応援する団体も存在する。

 このような状況から推察すれば、李登輝は台湾でも人気を集めていると思われるかもしれない。だが、必ずしもそうとは限らない。たとえば、本田(2004)は2003年に実施された聯合報の調査とTVBS調査の調査結果から、李登輝よりも蒋経国の人気が高いことを指摘している(本田2004:200-205)。

 この記事では、台湾社会変遷基本調査(中央研究院実施主体の台湾全土のサンプリング調査、以下TSCS)から、李登輝への評価に関する調査結果をメモする(関連記事1関連記事2関連記事3と関連、重複する)。

 1つ目は、2003年実施データである。日本統治時代、蒋介石時代、蒋経国時代、李登輝時代、陳水扁時代の4時代を挙げ、それぞれに対する肯定的・否定的評価を4件法で尋ねている。結果は表1の通りである。

表1 台湾における李登輝時代への評価(2003年実施TSCS)
  度数 %
とても良かった 96 4.8%
良かった 879 44.3%
どちらともいえない 602 30.4%
悪かった 325 16.4%
とても悪かった 81 4.1%
合計 1983 100.0%
(出典)章英華・傅仰止主編(2004)『台灣社會變遷基本調查計畫第四期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年10月11日取得)の「34.不同的歴史發展對台灣社會的影響都不一樣。請問您認為以下的歴史時代對台灣的影響是好還是不好?(4)李登輝時代」(p.334)より寺沢重法作成。DKおよびNA回答は除いてある。

 回答の多い順から並べると「良かった」(44.3%)、「どちらともいえない」(30.4%)、「悪かった」(16.4%)、「とても良かった」(4.8%)、「とても悪かった」(4.1%)となる。

 また、「とても良かった」と「良かった」を「肯定的評価」としてまとめると49.1%、「悪かった」と「とても悪かった」を「否定的評価」としてまとめると20.5%である。「肯定的評価」(49.1%)、「どちらともいえない」(30.4%)、「否定的評価」(20.5%)という順になる。李登輝時代は肯定的に評価されつつも賛否両論のある時代と考えられようか。

 2つ目は、2013年実施データである。ここでは孫文蒋介石李登輝などの様々な歴史的人物をリスト化し、最も重要と思う人物を1人選択するよう求めている(傅・他主編2014:213)。結果は表2の通りである(李登輝を赤のフォントにした)。 

表2 後世最も記憶にとどめ尊敬されるべき歴史的人物(2013年実施TSCS)
  度数 %
毛沢東 11 0.6%
林献堂 22 1.1%
孫中山孫文 727 37.7%
渭水 61 3.2%
周恩来 5 0.3%
謝雪紅 4 0.2%
鄧小平 14 0.7%
蒋中正/蒋介石 106 5.5%
李登輝 166 8.6%
蒋経国 594 30.8%
その他 74 3.8%
陳水扁 12 0.6%
陳定南 7 0.4%
孔子 5 0.3%
誰もいない 121 6.3%
合計 1929 100.0%
(出典)傅仰止・章英華・杜素豪・廖培珊主編(2014)『台灣社會變遷基本調查計畫第六期第四次調查計畫執行報告』中央研究院社會學研究所(2021年10月11日取得)の「55. 請問您覺得哪一位歷史人物最值得後人景仰和紀念?」(p,213)より寺沢重法作成。DKおよびNA回答は除いてある。

台湾で最も重要な歴史的人物は誰か?(2013年) - 寺沢重法のブログ(2021年10月11日をもとにしている)。

 李登輝は第3位であり(8.6%)、第2位の蒋経国(30.8%)、第1位の孫文(37/7%)との間には小さからぬ差がある様子がうかがわれる。

感想

  • 2003年調査を踏まえると、李登輝時代とは、肯定寄りの賛否両論の時代ではないかと推察される。そして、2013年調査からは、李登輝は歴史上極めて重要な人物とまでは評価されていない様子がうかがわれる。
  • 李登輝の位置づけと評価は、日本と台湾でいささか異なる印象を受ける。台湾では人によって評価が異なり、政治史上の特記すべき政治家とまでは認識されていないのかもしれない。
  • 調査時点の問題がある。2003年と2013年の間には10年のひらきがある。2013年以降の政治情勢の変化も鑑みれば、2021年現在におけるリアルタイムの李登輝評価はまた異なる可能性がある。今日、あらためて調査する必要があろう。
  • どのような人が李登輝を肯定的に評価し、どのような人が李登輝を否定的に評価するのだろうか。社会人口学的変数や心理的変数との相関を見る必要があろう。

参考文献