『たばこパッケージの警告表示について 意識調査結果報告』(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策支援部2016)

更新2021年5月30日

shterazawa.hatenablog.com 2021年4月21日閲覧

 先日投稿したこのメモに関連する記事。2016年に実施された調査については、ITmediaも報じている。

 国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策支援部の調査である。記事タイトルからもわかるように、警告画像に賛成する人が少なくないことを示しているという。私が気になるのは、先の記事でも付言した、人々が不快に思うかどうか、不快に思うことと賛否がどう関連するのかという点である。調査報告書を見てみる。

 報告書の概要には「個別別の画像には不快・不適切と思うものがあっても、警告表示に画像を入れることには賛成」(p.1)と書かれている。この内容にそいながら内容を追う。

 なお、報告書全体にかかかわる前提を確認しておくと、調査票そのものまたはそれに類するものは収録されていない。全体サンプルの単純集計結果は収録されておらず、喫煙者や未成年者といったサンプル別に適宜紹介されている。

 質問方法は、たばこによる健康影響を警告した文章や画像を数点提示し、それに対する印象を尋ねる形である。以下の疾患ごとに作成され提示されている。

  • 肺がん(pp.5-8)
  • 心筋梗塞(pp.9-11)
  • 脳卒中(pp.12-14)
  • 肺気腫(pp.15-17)
  • 妊婦の喫煙(pp.18-20)
  • 受動喫煙(pp.21-23)
  • ニコチンへの依存(pp.24-26)
  • 未成年の喫煙(pp.27-29)
  • 歯科(pp.30-31)

(1)警告画像を不快と思うかどうか

 警告画像に関する設問はそれぞれの疾患について同じ質問がなされている。ここでは肺がんに関するものを引用する。

肺がんの警告表示の画像についてお聞きいたします。あなたが画像を見た際に、不快に感じ、警告表示として不適切と思うものはありますか。最もあてはまるものをお答えください。(お答えは1つ)

 

(出典)上記『たばこパッケージの警告表示について意識調査結果報告』p.8。

 結果を少し見ると「そのように思う画像はない」が喫煙者で約36.9%、未成年者が47.0%である。あてはまるものとして選ばれているのは患部などの写真を掲載した画像警告である。「そのように思う画像はない」と答えなかった回答者を、不快感を示した回答者とみなすことができよう。

 サンプルを分けた結果が提示されているので全体の結果はわからないが、「そのように思う画像はない」は約半数かそれを下回る結果に見受けられる。ただし、疾患による結果の違いもきになる。たとえば、「未成年者の喫煙」の画像では、喫煙者で「そのように思う画像はない」は54.8%である(p.29)。一方、「心筋梗塞」の画像では、喫煙者で「そのように思う画像はない」は30.9%である(p.11)。

 この結果の理由の一つとして考えられるのは、画像のインパクトだろう。前者の画像は未成年者の喫煙の光景だが(p.27)、後者のそれは心筋梗塞の手術の様子である(p.9)。「一般的には」後者を不適切なものに感じると思われる。

(2)画像警告の導入に対する賛否を尋ねた項目

 質問文を引用してみよう。

海外では、たばこのパッケージに画像付きの警告表示を義務づけている国々もあります。わが国でも、警告表示に画像を入れることに賛成ですか、反対ですか。あなたのお考えに最も近いものをお答えください。(お答えは1つ)

 

(出典)上記『たばこパッケージの警告表示について意識調査結果報告』p.38。

 これに対して喫煙者、非喫煙者、全体などのサンプル別に集計されている。総体的にみると確かに70%近い回答者が賛成と答えている様子がうかがわれる。

 ただし、この設問には「威光暗示効果」(小松2013:107-108)が生じている可能性も考えられる。小松(2013)によれば、「威光暗示効果とは、政治家など権威のある人の見解や、一般に流行していることを示すことで回答者に先入観を植えつけ、その見解・態度に対象者を誘導してしまうことである」(小松2013:107)という。

 そして、その具体例として、禁煙教育の是非を問う質問文の最初に厚生労働省の見解を提示している質問文を例示し、この提示部分こそが威光暗示効果を生じさせる可能性があると述べている(小松2013:108)。

 このことを踏まえて先の画像警告の是非を問う設問を読み返すと、「海外では、たばこのパッケージに画像付きの警告表示を義務づけている国々もあります」という記述に威光暗示効果が生じているのかもしれない。本当は反対もしくはわからないと思っていたとしても、海外ではそうだから、といわれたことで、賛成と回答した回答者もいるのではないかと推察される。

 調査の総評として、下記の結語がなされている。

画像つきの警告表示についても、成人の 70%が賛意を持っている。強く反対、反対は、合わせても10%に満たない。この割合から、個別の画像には不快・不適切と思うものがあったとしても、画像を入れることについては賛成していることがわかる。

 

(出典)上記『たばこパッケージの警告表示について意識調査結果報告』p.38。赤字は引用元で使用されている。

 より詳細に検討していくとなると、なんらかの形で関連度を見ていく必要があると思われる。たとえば、不快に感じた回答者とそうでない回答者で賛否の傾向がどのように異なるのか。不快に感じることの多かった画像に絞って関連をみるとどうなるか。

参考文献

  • 小松洋(2013)「2質問文を作ってみよう」大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋編『新・社会調査へのアプローチ─理論と方法』ミネルヴァ書房:99-118。