『たばこ陳列販売について 意識調査結果報告書』(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策支援部2017)

更新2021年5月30日

www.ncc.go.jp

 国立がん研究センター内のたばこ政策支援部によって実施された調査の報告。店頭でのたばこ陳列やたばこ自動販売機設置の是非を尋ねた意識調査であり、たばこをめぐる価値観や社会意識を把握する上で貴重な調査であると思われる。

 調査期間は5月上旬、世界禁煙デーに合わせて実施された。調査目的は「たばこ製品に手を出さないための対策について、国民の意識や認識の把握を目的として調査を実施した」(p.3)とのことであり、日本の社会状況を鑑みて自動販売機なども視野に入れてたという(p.3)。インターネット調査である。

 調査内容の前半部は街頭や店頭でのたばこや自動販売機を身にしたことがあるかどうか、その認識状況を尋ねている(pp.5-8)。

 後半部は本調査の目玉ともいうべき、陳列販売の是非に関する質問である(pp.9-20)。最も興味深い箇所ではあるのだが、設問の作成方法に違和感を覚える部分が少なくなかった。質問文が誘導的なのである。

 たとえば、たばこ自動販売機の是非を尋ねた質問文は以下のようになっている。

タバコの自動販売機は、たばこ規制枠組条約ガイドラインにおいて「自動販売機は、その存在自体が広告または販売促進の方法に相当するため禁止しなければならない。」と勧告しています。タバコの自動販売機の設置を認めない国も多くあります。このことについて、あなたはどのようにお考えですか。

 

(出典)『たばこ陳列販売について 意識調査結果報告書』(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策支援部 2017)の9頁。https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/tobacco_policy/report/press_release_20160530_02.pdf、2021年3月22日閲覧)。下線は寺沢重法が付け加えた。

 問題の箇所は「タバコの~勧告しています」である。これは小松(2013)がいうところの「威光暗示効果」が懸念される(小松2013:107-108)。この文章を入れることで、自動販売機設置を認めないこと当然であるという印象を回答者に与え、結果的に禁止を支持すると答える回答者が実際よりも多く見積もられてしまう可能性がでてくる。 

 もちろん「たばこ規制枠組条約」などの用語については、馴染みのない回答者もいるだろうから、調査の中で何らかの説明を加える必要はある。しかし、このような順序で並べてしまうと、誘導尋問的になっているのではないかと気にかかるところだ。

 調査の結果は、成人全体でどちらかというと禁止を支持するもあわせて禁止を支持する価値王者が約90%であるという(p.9)。この90%はどこまで実態を適切に捉えているのだろうか。

 コンビニなどにおける陳列販売の是非を尋ねた質問文も似たつくりである。

海外では、写真のように、タバコの陳列販売を禁止して、タバコが見えな
いようにしている国もあります。タバコの陳列販売の禁止について、あなたはどのようにお考えですか。

 

(出典)『たばこ陳列販売について 意識調査結果報告書』(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策支援部 2017)の13頁。https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/tobacco_policy/report/press_release_20160530_02.pdf、2021年3月22日閲覧)。下線は寺沢重法が付け加えた。

 たばこ販売の取りやめに関する質問もそうである。

スーパーやコンビニエンス・ストアの中には、健康に悪影響のあるタバコについては、販売を取りやめる店もあります。利用しているスーパーやコンビニエンス・ストア、売店などが、タバコの販売をやめることについて、あなたは支持しますか。

 

(出典)『たばこ陳列販売について 意識調査結果報告書』(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策支援部 2017)の17頁。https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/tobacco_policy/report/press_release_20160530_02.pdf、2021年3月22日閲覧)。下線は寺沢重法が付け加えた。

 こうした社会調査方法上の問題は、同部局が行った、たばこパッケージの警告画像導入の是非に関する調査にもみられた。

shterazawa.hatenablog.com

 とても興味深い調査ではある。だが、たばこに対する人々の価値観そのものをより深く知りたいという私の関心からすると、本調査の政策提言的な部分がどうしても気になってしまい、しばしば読みにくさを感じた。

 なお、この調査の結果は、その後各紙で報じられている。

www.nikkei.com

mainichi.jp

www.sankei.com

参考文献

  • 小松洋(2013)「2質問文を作ってみよう」大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋編『新・社会調査へのアプローチ─理論と方法』ミネルヴァ書房:99-118。