中国大陸における宗教と喫煙(Wang et al. 2015)

更新2021年9月11日

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 Hussain et al.(2019)の中で参照されていた論文。Hussain et al.(2019)はイギリスのデータを用いて宗教と喫煙の関係を分析していたが、本論文は中国大陸を分析対象にしている。欧米以外の地域、特にキリスト教が主流宗教ではない地域に焦点を当てた研究として貴重なものだと思われる。さらに、本論文が対象とするのは寧夏回族自治区である。中国大陸全体を一つの単位として分析するのももちろん大切だが、その規模などのを考慮すると個別の地域を対象とした分析を積み重ねていくことも重要だろう。

 なお、本論文は禁煙推進における信仰の役割に期待を寄せる傾向があることを少し念頭においておくと、より読みやすくなるかもしれない。以下、概観する。

 まず、寧夏回族自治区を対象としたサンプリング調査が実施され、面談調査に当たってはオンライン支援調査が用いられている。従属変数である喫煙は、喫煙経験あり、現在も喫煙している、ICD-10における喫煙関連の障害である。独立変数である宗教は、宗教は大事だと思うか、活動にどのくらい参加するか、宗教は何か、などである。さらにいくつかの統制変数が使用される。

  結果は、統制変数を投入した上でも各宗教関連変数がマイナスの有意の関連を示すことから、宗教性と喫煙の遠さの間には独自効果が推察されるようである。ムスリムと非ムスリムでサンプルをわけると、前者にのみ各宗教変数の有意な関連が見出されたと指摘している。

雑感

  • 中国大陸においても宗教と喫煙の間に有意な関連が見出されたのは興味深い知見である。ただ、関連度の相対的な強さについてもう少し知りたいところである。Table4と5では、他の統制変数の結果が見受けられないため、統制変数と比較した際の相対的な関連度が不明である。適合度も少々気になるところである。
  • いずれのサンプルにおいても宗教との関連が見出されたのは、現在の喫煙状況である。ICD-10に該当するものについては、いずれも有意な関連が見受けられない。宗教と関連する可能性が推察されるのは、いわば日常的な嗜みとしての喫煙であり、それを超える喫煙となると、信仰に基づく禁煙推進は何かしらの壁にぶつかる可能性を示唆しているのではないかと考える。
  • ムスリムで宗教性との間に有意な関連が見受けられなかった理由の一つとして、測定法の問題も考えられる。一口に「宗教」という言葉がムスリムと非ムスリムで異なる可能性があるり、「宗教」という言葉が含まれた設問では測定しにくいのかもしれない。仏教や道教などをより深く論じていくならば、これらの宗教により即した測定法を検討していくことも必要なように思われる。
  • なお、Hussain et al.(2019)では韓国における宗教と喫煙の関係を分析した研究として、Myung et al.(2012)が紹介されている。この研究ではよると韓国においても信仰のある人は喫煙から遠い傾向にあることが指摘されていた。

参考文献 

  • Hussain, M., Walker, C. & Moon, G. Smoking and Religion: Untangling Associations Using English Survey Data. J Relig Health 58, 2263–2276 (2019). https://doi.org/10.1007/s10943-017-0434-9
  • Myung, Seung-Kwon, Hong Gwan Seo, Yoo-Seock Cheong, Sohee Park, Wonkyong B Lee, Geoffrey T Fong(2012)"Association of Sociodemographic Factors, Smoking-Related Beliefs, and Smoking Restrictions With Intention to Quit Smoking in Korean Adults: Findings From the ITC Korea Survey"Journal of Epidemiology 22(1):21-27.