戦前の中国、満州におけるたばこ広告を分析した論文

 岡本勝『タバコ広告でたどるアメリカ喫煙論争 』(岡本2017)の第2章「紙巻きタバコの流行と時代背景」に関連して調べたみた論文である(関連記事)。同章では、紙巻きたばこが流行する20世紀初期~中期のアメリカが、工業化や労働者の増加、女性の変化、第一次世界大戦などとの関連で論じられていた。同時代のアジア諸地域のたばこ広告はどうなのだろうか。以下の3篇をメモしておく。

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  • 汪鋭(2011)「中国の画報『良友』(1926-45年)のタバコの広告に見られる女たち」『表象文化研究』10(2):221-234。

 1920~1940年代の中国の国内資本のたばこ会社のたばこ広告に描かれる女性の姿を考察している。当時のたばこ広告における女性の描かれ方は、伝統的な女性の姿から、高級マンションでたばこをふかす女性やボディーラインを強調して描かれた女性など、伝統的な女性のあり方から解放され都市的生活を送るものへと変化している。

 これは上記岡本(2017)第2章のアメリカの状況とも似ている。一方で、中国の場合は、国産品購入や民族資本、愛国心を訴えるキャッチコピーも描かれている。そもそも五四運動以降に、海外資本に対抗する存在としてのたばこ会社が背景にあり、たばこ自体が民族独立運動を背景としていたことがうかがわれる。 

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  • 李培徳(2013)「1920~30年代のカレンダー広告画と近代中国のタバコ産業界の競争」『年報非文字資料研究』9:27-50。

  カレンダーにおけるたばこ広告を分析している。民国期においてカレンダー広告は様々なマーケティングにおける重要な媒体だったことを指摘した後に、カレンダー広告画の資料的価値が論じられる。当時のカレンダー広告の情報が徹底的に網羅されており圧巻である。

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  • 曹建平(2015)「満州国期の日系新聞における煙草広告とその内容分析─『満日』を対象に」『北海道大学大学院文学研究科研究論集』15:1-18。

 20世紀初頭の満州における日経新聞を用いて日本資本のたばこ広告を分析している。日中戦争を機に、愛国心を訴える広告や戦意高揚的な広告になる様子が描かれている。戦地にたばこをおくることが愛国的行為であることが描かれている点で、アメリカの事例と似ていなくもない(岡本2017:36-42)。一方で、英米資本のたばこ広告には必ずしも戦意発揚的なメッセージは見られないようである。

参考文献