更新2021年7月3日
台湾における階層に関する社会学的研究を整理する(この記事は、かつての公式サイト「寺沢重法のサイト」で公開していた資料の一部に基づいており、記事作成にあたっては大幅に加筆修正している)。
(1)概説・論集・レビュー
台湾の社会変動をおおむねオランダ植民地時代から通史的に論じている。台湾の社会構造といえば、本省人と外省人といったエスニシティ―のイメージがあるかもしれない。本書もエスニシティ―を分析軸に据えつつ、台湾が徐々にエスニシティ―では語れない、より複雑な様相を呈していることが指摘されている。その中で要因として社会階層に関する議論もなされている。
手前味噌ながら、本書の議論を計量分析で実証したことがある。
- 寺沢重法(2017)「『多元・多層構造』化する台湾における社会意識の規定要因の探求─エスニシティは社会意識の規定要因か?」『饕餮』25:93-112。
分析の結果、本書の議論は妥当なものであることを確認された(関連記事)。
台湾における階層の社会学的研究を俯瞰する上は、こちらのテキストが有益である。台湾社会学の代表的テキストであり、第5章「階級與階層」(蘇國賢)が階層研究に該当する。
2005年頃までの台湾における社会学研究のレビュー論集である。家族社会学、産業社会学、エスニシティ―研究などの個別分野の研究動向が整理されている。階層研究は第3章「台灣社會階層與社會流動的研究」(蔡瑞明)が該当する。
労働社会学のテキストであり、階層研究に限定されているわけではない。だが、階層研究と関連の深い雇用、貧困、経済格差などについて包括的な解説がなされ、階層研究ともかかわってくる。
台湾社会変遷基本調査(後述)を使用したシリーズの中の1つである。階級、教育格差、貧困、職業観などが分析されている(関連記事)。
(2)データ
実証的な階層研究においては調査データの存在が重要である。日本であればSSM調査はその代表的な調査だが、台湾では台湾社会変遷基本調査が重要である。
www2.ios.sinica.edu.tw 2021年4月8日閲覧
調査票、調査報告書、データセットのダウンロードが可能である。階層研究に関連しそうな調査モジュールに以下のものがある(新しいものから順に並べてある。また、その他のモジュールにも階層に関連する調査項目が確認されるものがある)。
- 第七期五次「社會不平等」(2019年実施)
- 第七期三次「社會階層」(2017年実施)
- 第七期一次「工作與生活」(2015年実施)
- 六期三次「社會階層」(2012年実施)
- 五期五次 「社會不平等」(2009年実施)
- 五期三次「社會階層」 (2007実施)
- 五期一次「工作與生活」(2005年実施)
- 四期三次「社會階層」(2002年実施)
- 四期二次「失業」(2001年実施)
- 三期三次「社會階層実施」(1997年)
- 二期三次「社會階層実施」(1992年)
なお、台湾社会変遷基本調査における階層関連データについては上述した『勞動社會學』の第1章でも解説されている。
(3)職業の指標
データを用いて階層を分析する上では、職業に関するカテゴリーをどのように設定するかが重要である。階層研究では職業の指標化をめぐって様々な議論が行われてきた。台湾における職業指標は以下の論文が詳しい。
- 黃毅志(2003)「台灣地區新職業聲望與社經地位量表」之建構與評估─社會科學與教育社會學研究本土化」『師大教育研究集刊』49(4):1-31。
- 黃毅志(2008)「如何精確測量職業地位?「改良版台灣地區新職業聲望與社經地位量表」之建構」『台東大學教育學報』19(1):51-160。
黄(2003)では職業威信スコアと社会経済指標の2つがシンタックスとともに紹介されている。黄(2008)では、この2つの指標に関する理論的考察がなされている。
なお、台湾の階層研究を理解するためには、そもそもの階層研究、社会的不平等研究、労働社会学などに関する背景知識が求められてくる。これらの分野を包括的に論じたものとして下記の書籍が有益である。
また、台湾の階層研究を把握するためには台湾社会学全体の動向も背景知識として求められる。下記の論文が参考になろう。
- 李奉儒(=山田浩之訳)(2017)「台湾における教育社会学研究の歴史的回顧と発展状況」『教育社会学研究』100:20-31。
- 川上桃子(2013)「本か論文か?台湾社会学者の学術コミュニケーション選択─3人の専門家へのインタビュー」『海外研究員レポート』1-17。
- 張茂桂・章英華・湯志傑(2005)「台湾社会学の歴史形成と制度発展(特集 東アジアの社会理論─グローバル化時代におけるアジアの社会学理論を中心に(2))」『現代社会理論研究』(15):448-465。
- 黄麗花(2000)「台湾社会学の歴史と未来─張家銘『社会学理論の史的省察』を手がかりに」『中央大学大学院研究年報』 (30):117-127。