宗教社会学に関する論集・テキスト(2)─宗教、経済、階層

更新2021年4月22日

 宗教社会学に関連する先の記事の続きである。宗教と関連のある価値観のなかで、私自身が興味のある宗教と経済の関係について、研究を整理してみる(この記事は、かつての公式サイト「寺沢重法のサイト」で公開していた資料の一部に基づいており、記事作成にあたっては大幅に加筆修正している)。

 「宗教と経済」と聞くと、宗教団体の資金の流れ、高額な寄付といった、いわゆるゴシップネタを連想するかもしれない。そうしたゴシップ記事的論調を狙ったような研究書がないわけではない。しかしながら、下記のような社会学の古典を見るだけでも、「宗教と経済」は決してのぞき見主義的な話題ではないことが推察されよう。 

  現代でも、所属教派によって経済活動に対する価値観、社会経済的地位が異なることいわれる。その意味で、宗教と経済は社会学の古典から続く中核的トピックともいえよう。以下、宗教と経済に関する実証研究をいくつか列挙していく。

 (1)概説・論集

Faith and Money (English Edition)

Faith and Money (English Edition)

 

  宗教と経済の関係に関する研究を概観するには、この書籍が重要である。宗教が経済状況や資産と、なぜ、どのように関連するのかが、実証データをもとに詳しく論じられている。第1章の理論的考察、特にFigure I.Iのモデルが有用である(詳しくは(関連記事を参照)。 

  こちらは宗教と階層、格差を扱った論集である。

(2)宗教と経済変動

 マクロ経済変動に対して宗教がどのように影響を与えたのかを論じた研究に以下のものがある。 

  • Barro, R., & McCleary, R. (2003). Religion and Economic Growth across Countries. American Sociological Review, 68(5), 760-781. Retrieved April 7, 2021, from http://www.jstor.org/stable/1519761
  • Collins, R. (1997). An Asian Route to Capitalism: Religious Economy and the Origins of Self-Transforming Growth in Japan. American Sociological Review, 62(6), 843-865. Retrieved April 7, 2021, from http://www.jstor.org/stable/2657343
  • Ruiter,Stijn and Frank van Tubergen(2009)“Religious Attendance in Cross-National Perspective: A Multilevel Analysis of 60 Countries,”American Journal of Sociology 115(3):863-95.https://doi.org/10.1086/603536

 Collins(1997)は日本の近代資本主義の形成に対する江戸時代の仏教の影響を論じている。Ruiter and Tubergen(2009)は国際比較データの分析から、経済的不平等の拡大が各地域の宗教参加度に相対的に強い影響を与えることを示している。

(3)所属宗教の社会経済的特徴 

  アメリカの宗教について、個々の教派や宗教間での社会経済的特徴の違いや信者の階層の変化などを扱った書籍である。

(4)社会経済的特徴と様々な宗教性

 先に挙げたものが個別の教派や宗教であるとすれば、以下のものは、より様々な宗教性との関連を論じている。

  • Kim, A. (2002). Characteristics of Religious Life in South Korea: A Sociological Survey. Review of Religious Research, 43(4), 291-310. doi:10.2307/3512000
  • Daniel P. Mears, Christopher G. Ellison, Who Buys New Age Materials? Exploring Sociodemographic, Religious, Network, and Contextual Correlates of New Age Consumption, Sociology of Religion, Volume 61, Issue 3, Fall 2000, Pages 289–313, https://doi.org/10.2307/3712580
  • Roemer, M. (2009). Religious Affiliation in Contemporary Japan: Untangling the EnigmaReview of Religious Research, 50(3), 298-320. Retrieved April 3, 2021, from http://www.jstor.org/stable/25593743
  • Philip Schwadel, John D. McCarthy, Hart M. Nelsen, The Continuing Relevance of Family Income for Religious Participation: U.S. White Catholic Church Attendance in the Late 20th Century, Social Forces, Volume 87, Issue 4, June 2009, Pages 1997–2030, https://doi.org/10.1353/sof.0.0220

 Roemer(2009)は日本、Kim(2002)は韓国における宗教と社会経済的地位を分析したものである。アジアの宗教と経済を見る上で貴重である。

(5)宗教と資産・金融

 以下の2つは、資産形成に対する宗教の影響を論じたものである。

  • Lisa A. Keister, Religion and Wealth: The Role of Religious Affiliation and Participation in Early Adult Asset Accumulation, Social Forces, Volume 82, Issue 1, September 2003, Pages 175–207, https://doi.org/10.1353/sof.2003.0094
  • Keister,Lisa A.(2008)"Conservative Protestants and Wealth: How Religion Perpetuates Asset Poverty,"American Journal of Sociology 113:1237–1271.

 上述した同著者による『Faith and Money』とも関連の深い論文であるため、併読するのがよい。

(6)宗教と経済的価値

 経済などに対する価値観との関連も論じられている。たとえば以下の論文である。

  • Davis, N. J., & Robinson, R. V. (2006). The Egalitarian Face of Islamic Orthodoxy: Support for Islamic Law and Economic Justice in Seven Muslim-Majority Nations. American Sociological Review, 71(2), 167–190. https://doi.org/10.1177/000312240607100201

 国際比較データを用いてイスラム諸国における経済的価値を分析している。

(7)宗教と貧困、福祉 

 釜ヶ崎の野宿者支援における宗教の役割を論じた都市エスノグラフィーである。長期にわたる綿密なフィールドワークが特徴的である。

 以上、宗教と経済、階層に関して、私なりにまとめてみた。しかしながら、関連するトピックはより多岐にわたる。たとえば、経済と様々な形で関連するであろう教育がある。仕事や経済状況に対する満足度なども含まれよう。今後も別途探索する必要がありそうである。

関連記事