更新2021年6月8日
いわゆる本省人と外省人というカテゴリーで見ることは、今日の台湾社会を理解する上ででどこまで有用なのか。全土調査を少し分析した経験からすると、必ずしも有用というわけではないと感じる。以下、上記、寺沢(2018)から抜粋。
ただし、「族群」という視角でどこまで論じることができるのかについては注意を要する。…<中略>…たとえば、大陸での就労志向の高まりは外省人において顕著なのか、仮に本省人において大陸での就労志向が低いならば、それは戒厳令や二二八事件に対する否定的感情と繋がっているのか。台湾の若年層が日本のポップカルチャーを好むのは、日本語世代が日本統治時代を懐かしむのと同じ心理なのか。
(出典)寺沢(2018:69)
「族群」が社会的地位を分ける有力な軸でなくなっているならば、どのような軸(ジェンダー、地域、職業など)が有力になりつつあるのか。実証研究によって著者のモデルを確かめ、より深化させることに大きな意味があると考えられる。
(出典)寺沢(2018:75)
結果、「族群」によって明確に規定されているのは、台湾独立への賛否などのナショナル・アイデンティティに関する社会意識に限定され、…<中略>…二元・二層構造のイメージからすれば、外省人は階層帰属意識が高い一方で本省人は階層帰属意識が低いという結果が予想していたものの、そもそも「族群」自体に明確な関連は確認されなかった。
(出典)寺沢(2018:75)
台湾において社会意識を規定する軸は「族群」ではなく、社会階層要因を中心とする多面的な社会的属性であることが推察される。台湾の社会意識の規定構造は確かに多元・多層構造である、というというのが評者の実感である。
(出典)寺沢(2018:75)
参考文献