台湾における言語、階層、族群(蔡2001)

更新2021年7月3日
  • 蔡淑鈴(2001)「語言使用與職業階層化的關係─比較台灣男性的族群差異」『台灣社會學』1:65-111。

  台湾において階層と職業、族群エスニシティ―)の関係がどのようなものなのかを分析したもの(1990年代のデータ。男性サンプルの分析)。

 まず、本論文はブルデューの「言語資本」を取り上げ、言語の運用能力は、労働市場での優劣と結びき、各種キャリア形成においても少なからぬ影響力をもつことを指摘する(pp.168-73)。そして、台湾社会の文脈という点では、特に戦後の多元的言語状況に注目すべきであるという。すなわち、日本統治時代の台湾では日本語、戦後は主として中国語(北京語、台湾華語などとも表現される)の運用能力が学校教育や職業で少なからぬ影響力をもち、それと同時に、族群によって母語が異なる状況が続いてきたためである(pp.74-76)。
 分析結果を総合的に見ると、学歴等とは別に、言語そのものの階層に対する独自効果が確認されることが指摘されている。そして、言語の運用能力は族群間でも族群内でも、変化は生じつつも、差が確認され、族群による言語格差、そして言語格差による労働市場の分断が推察されている。

 本論文を初見したのはかなり前である。言語との関連で台湾史を論じた代表的研究に菅野(2012)がある。一方で、本論文のように調査票調査を通じて言語と階層の関連を分析した本論文も印象的だった。ただ、1990年代のデータである。その後、出稼ぎ労働者や外国人労働者の増加し、かつその二世さらには三世も重要になっている(沼崎2014)。言語状況はより複雑になってきていると思われるので、より新しいデータで改めて分析してみてもよいかもしれない。
なお、本論文は台湾内の言語に焦点を当てていたが、Tsai(2010)では英語が分析されている。こちらは園田(2012)で論じられていた、英語の運用能力と階層の関係を示唆する内容になっている。

参考文献