アルコール、コーヒー、茶、たばこなどを「嗜好品」という枠組みで検討する研究である。以下、重要なものを4点挙げる。
嗜好品研究の嚆矢となるテキストである。第1部にはコーヒーや香辛料などの代表的な個別嗜好品ごとの章が収録され、第2部では嗜好品の概念をより広くとって様々な嗜好品が取り上げられる。第3部では嗜好品を研究するためのディシプリンを社会学や心理学などの個別領域ごとに取り上げている。第4部は古典ともいうべき研究書の紹介である。巻末には各章に関する文献リストが収録されている。
本書で取り上げられている嗜好品を目次からピックアップしてみると以下のものがある。
第1部
コーヒー、茶・紅茶、酒・アルコール飲料、たばこ、清涼飲料水、カカオ・チョコレート、菓子、香辛料、ビンロウ、コーラ、カヴァ、カート
第2部
ハチミツ、砂糖、香水、お香、油脂、水、塩、音楽、ケータイ
ビンロウ、コーラ、カヴァ、カートは日本国内ではあまり馴染みがないかもしれないが、アジア、中東、アフリカなどにおいては主要な嗜好品のである。こちらのサイトではその様子を紹介したことがある(ビンロウ、コーラ、カヴァ、カート)。
水や音楽、ケータイがなぜ嗜好品に含まれるのかについては、理論的考察を行った「序章 嗜好品文化研究への招待」「終章 嗜好品文化研究の発展のために」で示唆されている。
文化人類学の視点から嗜好品を論じたもの。『嗜好品文化を学ぶ人のために』はこちらの書籍の実質的な続編と見ることができよう。収録されている個別具体的な嗜好品は『嗜好品文化を学ぶ人のために』とかなり共通しているが、馬乳酒、ガラナ、コカ、便汁などはオリジナルである。「序章 嗜好品に関する文化人類学的考察」「終章 嗜好品の比較文化」が理論的考察である。
成蹊大学文学部のメンバーが中心になって著された論集。コーヒーや酒などが取り上げらているが、それ以外にも奈良時代の肉(第6章)や和菓子の包装紙(第7章)が興味深い。また、ムスリムにおける嗜好品(第5章)と日本人の嗜好品(第8章)が、計量社会学的アプローチから論じられている。いずれの章も、まず問いを立て、それに対する答えを探求していくという論述スタイルが貫かれており、かつ明示的である。問いと答えの設定の仕方を見ていく上でも示唆的であろう(過去の記事)。
書名にある通り社会学、特に計量分析とインタビュー調査を駆使した実証社会学に重きが置かれた嗜好品研究である。論点は、以下の目次から読み取ることができる。
序章 嗜好品の社会学の理論と方法
第1部 嗜好品の規定メカニズム
1章 アンバランスによる世界の再魔術化―日本人の嗜好品摂取
2章 嗜好品への文化的オムニボア仮説の適用―嗜好品と社会階層
3章 脱文化的卓越―嗜好品とジェンダー、自己
4章 主婦規範と女性のネットワーク―嗜好品としてのサプリメント
コラム1 嗜好品という言葉の誕生
第2部 嗜好品の社会的役割
5章 こだわりが結ぶサポートネットワーク―嗜好品とソーシャルキャピタル
6章 必要ないものの必要性―嗜好品からみる近代社会
7章 多様化と個性化,オーダーメイドの案内人―嗜好品とウェルビーイング
8章 スイーツの力,思い出の月命日―嗜好品と豊かさ
コラム2 嗜好品に関する心理学研究の潮流
たとえば、「文化的オムボニア仮説」(様々なジャンルの文化を嗜むかどうか)は文化社会学の重要概念の一つである。ウェルビーイングは精神的健康をめぐる社会学のキーワードである。社会階層論、ソーシャルキャピタル論(社会関係資本論)やネットワーク論も見受けられる。