更新2021年6月22日
- Ellison, C., & Musick, M. (1993). Southern Intolerance: A Fundamentalist Effect? Social Forces, 72(2), 379-398. doi:10.2307/2579853
アメリカ南部研究。アメリカ南部の社会心理学的研究としては『名誉と暴力─アメリカ南部の文化と心理』（Nisbett and Cohen（1996＝2009））が代表的である。同書では、アメリカ北部と比べて南部においては、名誉を傷つけられた時に暴力をもって名誉を回復する、あるいは名誉を傷つけられないように暴力的である、という価値観がより顕著であり、それがなぜなのかという問いを心理学手的実験や社会調査データの分析から検討する。
本論文もアメリカ南部社会論に属する研究である。先行研究では南部の人々はマイノリティーに対して不寛容的であること指摘されてきたが、それは南部における福音派の存在の大きさが理由ではないかという説が提起されている（保守的プロテスタントは、キリスト教原理主義、キリスト教右派、福音派など、ニュアンスの異なる言い方があり、その内実も複雑だが、ここ福音派と表記する）。
本論文は、1988年に実施されたGSS（General Social Survey）様々なマイノリティーに対する寛容性に焦点を当てている。分析の結果、福音派によって説明する仮説は一部支持されるものの、宗教関連変数を統制した上でも南部と不寛容性の間の関係は残るという。
本論文の特色は、南部の不寛容性に関して、宗教的要因と地域的要因の複合的な関連を示唆した点にあろう。
補足すると、著者の一人であるEllison氏は、南部における暴力や銃（Ellison 1991a、1999b）、そして福音派と体罰の関係（Ellison and Sherkat 1993）等を研究しており、南部と暴力と福音派というテーマもそれらの関心に連動するものであると推察される（氏は宗教と精神的健康に関する研究で著名である。詳細は私のサイトを参照）。また、近年、日本で福音派というと主に政治との関係に注目されるが（青木2012、飯山2013、鈴木2019）、アメリカでは体罰や同性婚に関する議論でもインパクトを示してきた（Ellison and Sherkat 1993；Ellison et al. 2011）。
参考文献
- 青木保憲（2012）『アメリカ福音派の歴史─聖書信仰にみるアメリカ人のアイデンティティ―』明石書店。
- Ellison, C. (1991a). An Eye for an Eye? A Note on the Southern Subculture of Violence Thesis. Social Forces, 69(4), 1223-1239. doi:10.2307/2579310
- Ellison, C. G. (1991b). Southern culture and firearms ownership. Social Science Quarterly, 72(2), 267–283.
- Ellison, C., & Sherkat, D. (1993). Conservative Protestantism and Support for Corporal Punishment. American Sociological Review, 58(1), 131-144. doi:10.2307/2096222
- Ellison, C., Acevedo, G., & Ramos-Wada, A. (2011). Religion and Attitudes Toward Same-Sex Marriage Among U.S. Latinos. Social Science Quarterly, 92(1), 35-56. Retrieved June 22, 2021, from http://www.jstor.org/stable/42956473
- 飯山雅史（2013）『アメリカ福音派の変容と政治―1960年代からの政党再編成』名古屋大学出版会。
- Nisbett, Richard E. and Dov Cohen (1996) Culture of Honor: The Psycholgy of Violence in the South, Routledge.（＝石井恵子・結城雅樹編訳（2009）『名誉と暴力─アメリカ南部の文化と心理』北大路書房）
- 鈴木崇巨（2019）『福音派とは何か？─トランプ大統領と福音派』春秋社。
