『女性とたばこの文化誌』(舘編2011)

  たばこ表象に見られる女性を論じたもの。刊行経緯は舘(2012)が詳しい。大部の書籍である。目次を見ることでその内容を概観されたい。以下の通りである。

はじめに(舘かおる)

I 女性の喫煙規範の成立と揺らぎ

1 近代日本における女性の喫煙規範の成立(藤田和美)

2 女性の喫煙についてのディスクールジェンダー規範─大正・昭和戦前期を中心に(舘かおる)

3 江戸時代の女性の喫煙の諸相(中村文)

 

II たばこ広告とジェンダー表象

4 「天狗煙草」ポスターに見る女性の裸体表象(山崎明子)

5 日清・日露戦争期におけるシガレットのジェンダー化(松浦いね)

6 昭和三〇年代のたばこ広告ポスターにおける女性像と新たな規範(山崎明子)

7 テレビコマーシャルに見るジェンダー(山崎明子)

8 たばこ広告に見る女性イメージ(山崎明子)

9 男性の喫煙とジェンダー表象(舘かおる)

 

III メディアにおける女性の喫煙表現

10 流行歌における女性の喫煙(藤田和美)

11 昭和初期日本映画における喫煙表現と社会的アイデンティティ形成(サラ・ティズリー)

12 明治・大正・昭和の小説の中の女性の喫煙と規範(松浦いね)

13 『ブランコ・イ・ネグロ』に見る女性の喫煙(磯山久美子)

 

IV たばこ産業の中の女性たち

14 「たばこ屋の娘」のセクシュアリティ(堀千鶴子)

15 たばこ工場労働者カルメンの表象(磯山久美子)

16 小説『煙草工女』における労働とジェンダー(藤田和美)

 

V 女性の喫煙倫理とジェンダー

17 女性作家と喫煙表現─富岡多恵子の描く女性の喫煙(藤田和美)

18 占領下における女性とたばこ(堀千鶴子)

19 現代の喫煙倫理とジェンダー─新聞投書の内容分析から(松浦いね)

20 喫煙・禁煙・嫌煙ジェンダー規範(舘かおる)

21 おわりに─「たばこ」とジェンダー(舘かおる)

あとがき(舘かおる)

 

参考文献

「隣の庭のカエルの鳴き声は騒音か?「自然音」と訴え退ける判決」(NHKニュース2021年4月23日)

www3.nhk.or.jp  2021年4月24日閲覧

 カエルの鳴き声は騒音ではなく自然音であるという判決が出たようだ。

これについて東京地方裁判所の益留龍也裁判官は判決で「仮にうるさい音が発生していたとしてもカエルの鳴き声は自然音の1つだ。あえて大きな音をわざと発生させるなど特段の事情がないかぎり、騒音には当たらない」と指摘し、住民の訴えを退けました。

 

(出典)隣の庭のカエルの鳴き声は騒音か? 「自然音」と訴え退ける判決 | NHKニュース(2021年4月24日閲覧)。

 読売新聞やTBSでは、裁判の争点も紹介されている。

 カエルの鳴き声は何デシベルか、カエルの種類は何かなどが争点になったようである。

戦前の中国、満州におけるたばこ広告を分析した論文

 岡本勝『タバコ広告でたどるアメリカ喫煙論争 』(岡本2017)の第2章「紙巻きタバコの流行と時代背景」に関連して調べたみた論文である(関連記事)。同章では、紙巻きたばこが流行する20世紀初期~中期のアメリカが、工業化や労働者の増加、女性の変化、第一次世界大戦などとの関連で論じられていた。同時代のアジア諸地域のたばこ広告はどうなのだろうか。以下の3篇をメモしておく。

ci.nii.ac.jp

  • 汪鋭(2011)「中国の画報『良友』(1926-45年)のタバコの広告に見られる女たち」『表象文化研究』10(2):221-234。

 1920~1940年代の中国の国内資本のたばこ会社のたばこ広告に描かれる女性の姿を考察している。当時のたばこ広告における女性の描かれ方は、伝統的な女性の姿から、高級マンションでたばこをふかす女性やボディーラインを強調して描かれた女性など、伝統的な女性のあり方から解放され都市的生活を送るものへと変化している。

 これは上記岡本(2017)第2章のアメリカの状況とも似ている。一方で、中国の場合は、国産品購入や民族資本、愛国心を訴えるキャッチコピーも描かれている。そもそも五四運動以降に、海外資本に対抗する存在としてのたばこ会社が背景にあり、たばこ自体が民族独立運動を背景としていたことがうかがわれる。 

ci.nii.ac.jp

  • 李培徳(2013)「1920~30年代のカレンダー広告画と近代中国のタバコ産業界の競争」『年報非文字資料研究』9:27-50。

  カレンダーにおけるたばこ広告を分析している。民国期においてカレンダー広告は様々なマーケティングにおける重要な媒体だったことを指摘した後に、カレンダー広告画の資料的価値が論じられる。当時のカレンダー広告の情報が徹底的に網羅されており圧巻である。

ci.nii.ac.jp

  • 曹建平(2015)「満州国期の日系新聞における煙草広告とその内容分析─『満日』を対象に」『北海道大学大学院文学研究科研究論集』15:1-18。

 20世紀初頭の満州における日経新聞を用いて日本資本のたばこ広告を分析している。日中戦争を機に、愛国心を訴える広告や戦意高揚的な広告になる様子が描かれている。戦地にたばこをおくることが愛国的行為であることが描かれている点で、アメリカの事例と似ていなくもない(岡本2017:36-42)。一方で、英米資本のたばこ広告には必ずしも戦意発揚的なメッセージは見られないようである。

参考文献

東京都医師会のパンフレットに見る宗教と禁煙推進の関係

 たばこと宗教の関連を指摘する研究はいろいろとある。たとえば、Hussain et al.(2019)、Kaplan et. al(2019)、Myung et. al(2012)、Petticrew et. al(2015)、Wang et al.(2015)がある。近代日本の禁煙運動史においても、日本キリスト教婦人矯風会セブンスデー・アドベンチスト教会に関連する日本禁煙協会といった、キリスト教系団体が果たしてきた役割が指摘されている(松尾2019:129-130)。これらの研究は過去の記事で言及した(関連記事12345)。

  それでは、現代日本の禁煙推進において、宗教との関連はどのように説明されているのだろうか。調べるべきこと、検証すべきことは相当あろうが、ここでは、そのごく一部として、東京都医師会による喫煙に関する啓発用パンフレットを簡単に見てみる。

www.tokyo.med.or.jp  2021年4月22日閲覧

  • 東京都医師会タバコ対策委員会(2019)『タバコQ&A【改定第2版】喫煙・受動喫煙の最新知識─新型タバコの問題点』公益社団法人東京都医師会。

 この資料が日本の禁煙推進、たばこ業、医療などに関する団体、人々の見解を代表しているとは言い切れない。だが、東京都医師会が日本における重要な医療系団体であることを考えれば、参照することに意味があると考える(奥付には執筆者は明記されていないが、日本禁煙学会の作田学、望月友美子の両氏ががアドバイザーとして参画している)。

  1頁に1つのQ&Aをまとめる形式であり、全部で37の質問が収録されている。禁煙運動と宗教に関するものは、該当箇所は51頁にある。

 「Q37 禁煙運動は魔女狩り的な独裁主義(ナチズム、ファシズム)では? 禁煙運動はヒステリックな潔癖主義(ピューリタニズム)では?」という問いに対して、「A37 禁煙運動には差別的思想や潔癖主義など、まったく存在していません。」と回答し、その後、具体的な説明がなされる。該当箇所は下記である。 

 また、禁煙推進は、ピューリタニズムと呼ばれる潔癖主義・禁欲主義によって提唱されたわけでもありません。20世紀中旬に、喫煙が肺がんをはじめとする多くの疾患の原因であることが科学的に証明されたため、対策が始まったのです。

 アスベストなどと同様に、以前は明らかでなかった有害性が証明された結果、喫煙及び受動喫煙防止対策が急速に進んできたのです。喘息患者さんなどは、受動喫煙により即座に苦しくなるため防止策を求めているのです。苦痛を訴えている方々を、「ヒステリック」などと揶揄することは、慎むべきではないでしょうか。

 

(出典)東京都医師会タバコ対策委員会(2019)『タバコQ&A【改定第2版】喫煙・受動喫煙の最新知識─新型タバコの問題点』公益社団法人東京都医師会、p.51。下線は寺沢重法が加えた。

  ピューリタニズムと禁煙推進の間に明確な関連はないとしているようである。もっとも、限られた紙幅で複数の論点に触れ、かつ、宗教に特化した解説ではないので、詳しい見解はわからない。だが、ピューリタニズムは差別思想などと同時に取り上げられている。また、このQ&Aは「第6章 禁煙推進活動に対する誤解・詭弁・誹謗中傷」(pp.46-51)という章に含まれている。

 これらのことからすると、禁煙推進は宗教的であるという指摘は、禁煙推進に対する否定的評価の1つであり、ピューリタニズムと禁煙推進は無関係であるという見識は、それに対する反論としてなされていると解釈することもできよう。

参考文献

  • Hussain, M., Walker, C. & Moon, G. Smoking and Religion: Untangling Associations Using English Survey Data. J Relig Health 58, 2263–2276 (2019). https://doi.org/10.1007/s10943-017-0434-9
  • Kaplan B, Hardesty JJ, Martini S, Megatsari H, Kennedy RD, Cohen JE. The Effectiveness of Cigarette Pack Health Warning Labels with Religious Messages in an Urban Setting in Indonesia: A Cross-Sectional Study. Int J Environ Res Public Health. 2019 Nov 5;16(21):4287. doi: 10.3390/ijerph16214287. PMID: 31694236; PMCID: PMC6862042.
  • 松尾正幸(2019)『禁煙・受動喫煙教育新論―21世紀家庭・学校・地域社会からのアプローチ』世論時報社。
  • Myung, Seung-Kwon, Hong Gwan Seo, Yoo-Seock Cheong, Sohee Park, Wonkyong B Lee, Geoffrey T Fong(2012)"Association of Sociodemographic Factors, Smoking-Related Beliefs, and Smoking Restrictions With Intention to Quit Smoking in Korean Adults: Findings From the ITC Korea Survey"Journal of Epidemiology 22(1):21-27.
  • Petticrew M, Lee K, Ali H, Nakkash R. "Fighting a hurricane": tobacco industry efforts to counter the perceived threat of Islam. Am J Public Health. 2015 Jun;105(6):1086-93. doi: 10.2105/AJPH.2014.302494. Epub 2015 Apr 16. PMID: 25880961; PMCID: PMC4431096.
  • Wang, Z., Koenig, H.G. & Al Shohaib, S. Religious involvement and tobacco use in mainland China: a preliminary study. BMC Public Health 15, 155 (2015). https://doi.org/10.1186/s12889-015-1478-y

平山雄氏とセブンスデー・アドベンチスト教会に関するメモ

更新2022年3月30日

 先日書いた記事の中で、近代日本の禁煙運動史においてセブンスデー・アドベンチスト教会が重要な役割を担ってきたことを確認した(関連記事)。

 セブンスデー・アドベンチスト教会と健康の関連をいくつか探索してみると、セブンスデー・アドベンチスト教会の公式サイトのQ&Aコーナーの中に、目に留まる解説があった。

adventist.jp  2021年8月12日閲覧

国立がんセンターの平山雄元疫学部長は、日本における健康調査の結果から、最も健康的な日本人はアドベンチストのライフスタイルを実行している人たちであると結論しました。彼は、健康増進のために「SDA型ライフスタイル」を提唱し、「禁煙・菜食・がん予防」という標語を作り出しました。

 

(出典)「なぜ健康的なライフスタイルを勧めるのですか?」『セブンスデー・アドベンチスト教会』(2021年8月12日閲覧)。

 平山雄氏は、日本におけるがん研究の代表的研究者である。特に、たばことがんの関係を指摘した「平山論文」で知られている。たばこの健康影響の議論,、特に受動喫煙に少し深く関心をもてば、何らかの形で平山雄という名前を目にするに違いない。そして、平山論文をめぐって様々な議論がなされている様子は、WIkipedia日本語版の「平山論文」(2021年8月12日閲覧)の項目からもうかがい知ることができよう。

 そうした平山氏が、セブンスデー・アドベンチスト教会の健康増進とともに語られるのは興味深い。下記のサイトからすると、おそらくは『これがあなたの健康歩道―がん・老化は防げる』(平山1994)が関連しよう。

参考文献

  • 平山雄(1994)『これがあなたの健康歩道―がん・老化は防げる』福音社。